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12話

「……、…!」

 目が覚める。時計を確認すると10分ほど過ぎていた。

「いかん、危ない危ない…」

「本当です。怖いことしますねライドさん」

「え?あれ?」

 横を向くと、そこにはロアが足を崩して座っていた。

「ロアさん、いつの間に…」

「心配なので身に来ちゃいました。ダメですよライドさん、燃えやすい物を近くに置いては。火が移らなくとも熱で発火することもあるのですから」

 ロアの指さした先を見ると、薪や油が遠くに動かされていた。

「すみません。気を付けます」

 ありがたい…けど、ここは俺の部屋。勝手に入って動かすなんて母や姉じゃあるまいし…。いやいや、あまりに危険だから断りを入れている余裕はなかったのだろう。でもロアさんはそういうの気にし無さそうというか。

「?…そんなに見られると恥ずかしいです」

「あっ、すみません。助かりました」

 時計を見直し、火を見る。まだまだ保ちそうだ。

「それと、ガラス戸を閉めた方が温まりますよ。今は試運転中だから開けているのかもしれませんが」

「閉めたらストーブでは?」

「違うものなんですか?」

「火で温まるのが暖炉で、火で熱した物で温まるのがストーブ…かと。ストーブは鉄で…鉄じゃなくてもいいはず。黒色は放射も吸熱もしやすく…あれ、自信無くなってきた…」

「まあ、どっちでもいいじゃないですか。とりあえず暖炉と呼びますね。今は要りませんが、お湯を沸かすと部屋の乾燥を抑えて、湯たんぽの熱源にも使えていいですよ」

「湯たんぽは持ってなくて…どうやったら入手できますか?」

「湯たんぽはニケちゃんの店にありますよ。今は出て無くて秋ごろに店頭に出ますね。家具屋という名前ですが色々売ってますね」

「ということは、まだまだ先ですね」

「案外すぐですよ。それじゃ、目も覚めてきたようですし、私は帰ります。暑さにも気を付けてくださいね」

 ロアは立ち上がって上着を着た。玄関で靴を履く。

 立ち上がって玄関で見送る。外には涼しい空気があった。部屋に戻って窓を開ける。いくらか涼しくなった。

 その後、時間を図り続け、大体の目安を見つけて記録した。火が完全に消えるのを待ってから外へ出た。辺りは夕暮れ色に染まっていた。


 ヒュークの店に食材を買いに行く。ヒュークの店の中には、村の外に売るものとは別に、村民相手に売る無人売店がある。

「ライド、助けてくれ…」

 店に入るなり、疲労しきったヒュークに出くわす。

「どうした?」

「犬が帰ってこない。見なかったか?」

「いや。いることすら初めて知った」

「ヤギやニワトリの番犬が…、愛しのワンコが…ゼズが…」

「いつから?」

「昼から見ていない。村の中を探しまわったが見つからない。聞いて回ったが、皆見ていない。旅人に連れ去られたか…?山に迷い込んだか…?山に入って怪我をして出られないのか…?」

「探すの手伝うよ。でも探す前に腹ごしらえして、少し休憩しよう」

「そんな暢気な…」

「長丁場になるかもしれない。先に補給しておかなければ…」

「まあ、そうだな。うちで食べていけよ。婆さんに今から作ってもらって、その間に話をするから」

 腰を下ろす。ヒュークは向こうに行って夕飯の準備を頼んだようだ。

「何か手がかりはないか?」

「村での目撃情報はない」

「見たのならともかく、見ていないという情報はそれほどあてにならない。無意識だと不要な情報は忘れるのだから」

「村の中が怪しいというのか?」

「いや、分からないが除外すべきではないということ。直前の様子でおかしなことはなかったか?」

「いいや、何とも。最後に見た時は寝ていた。夜行性だから、昼間はいつも寝ている。起きるのは夜になってから。強いて言うなら元気だったことか。突然なんだ、本当に突然いなくなった。元気だから、野犬やイタチを追い払って、どんどん遠くへ追い払おうとしていたら帰れなくなってしまったんじゃないかと」

「そうだとしたら山の中か…?」

「とはいえ、普段は牧場にいて、村の中に入ることはあまりない。村の中で迷子になることはありうる」

「今は誰が探している?」

「能動的に探しているのは俺だけだろう。さっき村を回って目撃情報を聞き、見つけたら教えてくれと伝えたが、探すのを手伝ってくれとは言ってない。あの時は、すぐに見つかると思っていたからな…」

「吠えるか?」

「あまり吠えない。しかし、吠えて居場所を伝えることはある」

「匂いはするか?部屋の中にいれば気づくような」

「いる部屋に入れば匂いが分かるだろう。鼻が慣れてたら分からないが」

「何か病気はあるか?耳が悪いとかないか?」

「病気は無い。五感についても問題ないだろう。犬らしく視力はあまりよくないが、嗅覚や聴覚に優れる」

「そうだ、アスモさんとニケ、それからロアさんには聞いたか?」

「ロアには聞いたが、見ていないとのこと。アスモさんとニケは会ってない。聞きに回った時は工房にいたのかもしれない」

「後で聞きに行こう」

「ロアは鳥の翼の傷を治した話を始める。チョウゲンボウだっけか、洞窟への道中で何を見たか聞いたのは俺だけど…」

「まあ、あの人はちょっと抜けてるところあるから」

「お前が言うか?火事になりそうだったと聞いたぞ」

「ぐ…」

 言い返せない。次から気を付けるとしか言えない。

「ひどいですライドさん…、そんなに悪く言うこと無いのに…」

 ドアが開き、悲しげな眼で訴えかける女性がそこに立っていた。

「あっ…ロアさん、これは…」

「ふふ…冗談です。皆から天然とよく言われ慣れてます。どうにも治らないようなので、弱点を埋め合わせるようにこの性格と付き合ってますよ」

 ロアは穏やかな笑顔でそう言った。

「あまりからかってやるなよ」

「ふふ…ごめんなさいね。それで、ヒュークさん、来たのはゼズ君のことですが」

「何か分かったのか!?」

「その様子だとまだ見つかってませんね。ゼズ君か分かりませんが、休憩中に犬が吠えているのが聞こえて来たのを思い出しました。洞窟の中にいて、外から聞こえたので小さい音でしたが。昼過ぎくらいですね」

「洞窟辺りか…」

「私も探すのを手伝います。洞窟の方へ行きましょう」

「助かる。だが、その前に腹ごしらえだ。ロアはもう食べた?」

「まだ早いので食べてません」

「うちで食べるか?」

「うちに用意してしまったので…」

「それならいいんだ」

「でも、長丁場なら軽くでも食べてからの方がいいですね。家に戻って少し食べてきます。メインは探し終えてから食べようかな…」

「じゃあ、また後で来てくれ。その後で探しに行こう」

「分かりました。ではまた後程」

 ロアは足早に店から出て行った。

「一緒に行かなくてもいいんじゃないか?分担すれば」

「夜の洞窟付近は危ない。暗いし、照らすから目立つし、夜行性のハンターたちが活動を始める。1人じゃ襲われる」

「なるほど」

「おっ、できたようだ。俺たちも行こう」

 ヒュークの食卓で食事を食べる。最上級で新鮮なの野菜や卵、乳が使われており、澱みや雑味が全くない。新鮮だけではなく、いい具合に熟成させた魚も使われており、旨味が広がる。急ぎでなければもっと味わえたのが残念だ。


 食後に少し休憩する。

「召喚できるんだろう?何か憑りつく悪魔や幽霊に詳しくないか?」

「憑くのは沢山いすぎて分からない。でも憑くこと自体は珍しい。自然に出現したか、召喚してしまったか、そんなにないことだから」

「無くはないんだな?」

「無くはないが…」

「その偶然が今だったのかもしれない。祓い方は知っているか?」

「種類ごとに違うようだが、大体に使える方法を知っている」

「その方法は?」

「モンスターを召喚して、ある巻物を読んでもらう」

 魔導書を取り出して、ページを見せる。巻物が描かれている。


 ウルズブレイズ。神炎。呪いを焼き切る業火を呼び出す巻物。呪われた者ごと焼き払い、大抵の者は灰と化す。攻撃の余波で世界の呪いを消し去り、歪みを正す。呪い無しでも威力が高い。


「間違えた、こっちだ」

「物騒だな随分と」


 バニッシュサークル。消失の円陣。霊的存在をあるべき界へと波長を変え送り届ける陣を呼び出す巻物。呪いのかかっている、生贄や象徴を必要としない者に限られる。


「なぜ呪いが要るんだ?」

「呪いが世界を歪める。正確には、歪んだ世界が戻ろうとして呪いとなって現出する。板のこっち側に重みをかけると曲がって、手を離すと戻ろうとするだろう?重みをかけるのが召喚で、戻ろうとする動きが呪い。それで、この巻物は歪んでいなければ送り届けることができない、とのことらしい」

「うーん、なんとなく分かった。とにかく整えてやらないといけないんだな?冷たいと油が固化してしまうので、温かいところで操作しないといけないから温かくする、みたいなことだな。それで行こう。大物だったらお手上げだが」

「その場合は正攻法で行く。交渉する」

 そもそも憑りつかれたと決まったわけでもないのだが。

「山に入るなら武器が要るな」

 ヒュークはカマとクワを選び出して、台の上に置いた。

 呼び鈴を鳴らす音が聞こえ、戸を開けてロアがやってきた。

「ちょうどいい所に。準備はいいか?」

「ええ。大丈夫です」

「よし、出発だ」

 3人で夜の山に繰り出した。

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