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11話

「いやー、すまん。急激な眠気がやってきて。だが皿やカップは割れないように置くのは頑張ったぞ」

「父さん…穀類は白くないものをと言ったでしょう?それに、空腹時に一気に食べないことを…」

「いやあ、悪い悪い」

 アスモは目を覚まし、洗面台で顔を洗ってタオルで吹きつつ答える。ニケはカップを机の上に置き、皿を洗いに台所へ運ぶ。


「…え?どういうこと?」

「簡単に言うと食べて眠くなって寝てしまったわけだ」

「もっと深刻!眠くなったんじゃなくて昏睡!」

 ニケは静かに声を荒げた。ため息をついていつもの調子に戻る。

「白い穀類は消化に良すぎてすぐに糖に変わってしまう。そうすると血液中の糖の量が急激に増えて、それを抑えようと体が働きかけて昏睡させてしまうというわけ。ゆっくり食べればある程度抑えられるけど…」

「ああ、そういうことか」

「胃腸が弱っている時は消化にいいものの方がいいけど、普段は別」

 アスモは戻ってきて飲みかけのお茶を飲み干す。

「白い方が美味いし…、ライド君もそう思うだろ?」

「白くて綺麗で癖もそれほどないですね…。でも危ない目に遭ってまで食べたいわけでも…」

「それは勿体ないような、羨ましいような…」

「父さん、昏睡を続けてたら酸欠で脳がだめになるわ。血管もおかしくなる。いつか死んでしまう。私を一人にしないで」

「ぐ…そんなことを言われたら、断れないじゃないか…」

 アスモはニケの頭を撫でていたら、手を払いのけられた。怒ってるからしょうがない。それにプライドの高い子の頭を気安く触ってはいけない。たとえ身内であろうと。

「少し外を歩いて目を覚ましてくる。このまま作業に戻っても危ないんでな」

「行ってらっしゃい」

 アスモは剣を持って戸を開けて外に歩いて行った。

「さてと、ちょっと予定が変わったけど紹介する。ここが工房、家具をここで作って町に運んで売ってる。今日は池から経由してきたけど、ここからの方が村に近い。家具屋は週3日営業で、残りは休みかここで作っているか」

 組み立て前の柱や、角が残った台、ニスを塗って乾かしている机などが周囲にある。作業机の上には物差しやチョークがある。地面には切れ端やオガクズが少し落ちている。壁一面には鍵のかかった戸があり、横の開いている戸には砥石と染料が見える。閉っている方は刃物類や有害な染料だろか。部屋の隅には袋に詰まったオガクズがある。

「オガクズを袋にまとめてどうするんだ?」

「ああこれ?シャン博士たちに渡す。安いけど買ってくれるから」

「何に使うんだ?」

「キノコの栽培に使うって。その後はヒュークの農場へ。土にするらしい」

「へえ、一度は見てみたいな」

「そういえば、ここでも土を作っている。この壁の向こう側には樹皮を積んでいて水もやって、発酵させて土にしている。発酵熱が出るので、この壁の近くは冬でも比較的温かい。まあ、冬にここに来ることなんて滅多に無いんだけどね」

「え?どうして?」

「あの雪山の中じゃまともに材料を調達できない。それに、村の中は除雪するけど、ここまでの道はしないので凍り付いて危険。限られた燃料を燃やしてまでして、ここに来る必要はそんなに無いから」

「そうなのか。逆にどういった時に来るんだ?」

「薪が足りなくなって外の保管場所に取りに来る時とか、壊れた家の建材が店の倉庫に無くて作りに来る時とか、…あとサウィンが発酵熱の様子を見たくて来た時とか」

「まあ、あの子ならそう言いそうだ…」

「…まあ、楽しかったけどね」

 ニケは引き出しから袋を出す。硬貨の擦れる音が聞こえる。

「依頼は終わり。ありがとう、これはほんの気持ち」

「ありがとう」

「じゃあ解散。私は父さんが戻って来るまで待つ。その後で家に帰って籠作りの続き」

「俺も残ろうか?」

「そんな気を遣わなくていいよ。そうだ、薪も少し持って行きなよ。急に冷える時があるかもしれない。空き家だったからストック無いんじゃない?」

「確かにストックはない。しかしいいのか?」

「いいよ、村の共有の薪だから。それに、そのうち薪割り手伝ってもらうつもりだし」

「あはは…、では遠慮なく。じゃあまた」

「また今度」

 ニケに別れを告げた後に外に出て薪を掴む。

 ところでどれくらい要るんだ?まあ、一度試してみればいいか。

 片腕に抱えるくらい持って道なりに進んで村へと歩いて戻る。途中の道で見知った顔を見つけた。

 白い岩石のようなものを入れた籠を手に持っており、大型のメイスを背負っている。

「ロアさん、こんにちは」

「あら、こんにちはライドさん。…薪を持ってどうしたんですか?」

 並んで歩き、村の帰路に就く。

「ニケの依頼が終わって帰りです。薪は無かったので貰いました」

「そうなんですか。それで足ります?」

「今回はどれくらいの量がどれだけ保つか試してみるので」

「暖炉を使ったこと無いんですか?」

「暖炉は無いですね。島では魔力と魔導機使ってました。火事や漏電、毒ガス中毒の危険がないので」

「冬の期間中、魔力を暖房に…?贅沢な使い方ですね…」

「そんなに冬が長くない上に、食料も困りませんから。…夏は酷暑で秋は台風連撃ですけど」

「向こうも大変そうですね」

 そういう訳で、夏と冬で住処を変えるための候補地探しに来たわけだ。俺はここの調査担当。

「暖炉の扱いに気を付けてくださいね。火をつける前は給気口が開いているのを確認すること、火を消した後は完全に消えたか確認すること。いいですか?」

 ロアはこちらを向いてじっと見る。言いにくいのだが…。

「給気口?そんなのあるんですか?」

「無いと死んでしまいますよ。隙間風の抜ける家ならいざ知らず、そういう作りじゃない家で無かったら困ります。煙突の側面が二重になっていて、吸気用の隙間ができています。それが暖炉の下に来るようになっていると思います。あるいは壁に穴が開いているかも」

「壁に穴?そんなことしたら結局冷えるのでは?」

「温まりにくくはなります。なので冷えにくいように、煙突の熱がいくらか移った空気を室内に入れる隙間を使います」

 掃除の時にあったかな?外からは見えないだけかな?

「気を付けます。給気口の確認と、火が消えたかの確認ですね」

「そうです。後は肌が乾きすぎないように…、まあこれは命に係わることでもないですね」

 ロアは籠を右手から左手に持ち替えた。

「持ちましょうか?」

「ああ、大したことないので大丈夫ですよ」

「今更ですが、それは何ですか?」

「これですか?これは塩です、岩塩です」

 ロアは一欠片を取り出して渡す。

「岩塩…この辺りで採れるんですね」

「はい、山羊さんも大好き岩塩です。そこの洞窟に行けば採れます。…が、安定した品質で、さらさらな粉状にして壺に入れた物や、プレート状で取り出したものは雑貨屋で売っています。手間が惜しいと思ったら買いに来てください。時は金なり、ですよ」

「そうですね。その時選びます。洞窟には一度行ってみたいです」

「誰でも入れますが、道が分かりにくいです。今度案内しましょうか?」

「お願いします」

「はい、お任せください」

 頼られて何だか嬉しそうだ。

 村に着き、ロアと別れて家に戻る。家に入って薪を置き、暖炉の扉を開けて通気口を探す。暖炉の奥の石板の下には隙間があり、風の音が聞こえた。指を咥えて濡らし、近づけると風を感じる。空気が通っているようだ。

 しかし詰まっていて不十分な可能性もある。確かめれないだろうか。

 L字に曲がった棒を倒して下に通し、回して向きを変え、左右にスライドさせてみた。この範囲では特にぶつかる様子はない。取り出すと埃が少しついただけ。面倒だが、魔術で見るか。

「魔術・音波術」

 異なる波長を送ってその反射音の状態を脳内で処理して見る。崩れて詰まったりはしていない。ミイラ化した蜘蛛か何かが1つあるようだ。風が吹けば崩れる。問題ない。

 問題もなかったので、試すとしよう。風通しがいいように適当に薪を積んで火をつける。

「魔術・火炎術」

 薪に火が燃え移り、火が熱と光を放っている。変なことが起きないか見張っていないとな…、一応何か召喚しておくか?いや、いいだろう。時間を計ってと…。

 この火は落ち着くな…、何だか眠たくなって…。

 眠りに落ちた。火は徐々に勢いを増していく。

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