第8話 セルジュの家
チェコは相変わらずフェンリルの背中で寝ている。
それはもうとろけているみたいだ。
「ここだ。ここ。ここが僕の家さ」
セルジュとは比べ物にならない程の大豪邸だった。
セルジュは一体何者なのか。
「おふ。なんてでかい家なんだ」
フェンリルが思わず反応した。
もうそれくらいに大きな家だった。
庭なんて森の広場と同じくらいだ。
「はは。実は僕の父さんはちょっとしたお金持ちなんだ。ここはそれの別荘さ」
セルジュが笑い飛ばしたかのように言っていた。
「ほほう。素晴らしい家庭なんだな」
フェンリルが思わず両目を細めた。
「有難う。さ。遠慮することはない。中に入ろう」
セルジュがフェンリルの言葉を社交辞令として受け入れた。
「ああ。そうだな」
フェンリルは納得した。
「それじゃあ」
セルジュがそう言うと玄関まで歩いた。
その後をフェンリルが追った。
「さぁ。入りたまえ」
セルジュは親切にも玄関の扉を開けた。
開け終わると客人であるフェンリルに先に入るように言った。
「んじゃ遠慮せずに」
フェンリルは警戒することなく玄関口から中へ入った。
セルジュも中に入ると玄関が閉まる音がした。
「ところで恩返しはなんだ?」
フェンリルがセルジュの方を見ながら言っていた。
「フフ。すぐに分かるよ」
セルジュはそう言って玄関に鍵を掛けた。
それだけではない。
玄関に魔法陣が掛けられており結界が張られていた。
「な!」
フェンリルは驚いた。
まんまと引っ掛かった。
「フフ。ハハ。ようこそ。我が家へ」
セルジュは先程の人相から様変わりしていた。
それはまさしく善人から悪人に変わった瞬間だった。
「おい! 馬鹿な真似はよせ!」
フェンリルは吠えた。
「なぁあに簡単な話さ。これから君は僕の従魔になるんだからね。フフ。ハハ」
セルジュは最早別人だ。
「なに言ってんだ! 俺の主はチェコだけだ!」
そんなチェコはぐっすりと寝ている。
相当に大蛇との戦いで消耗したのだろう。
「そんなこと……言わずに。さぁ!」
セルジュはそう言い終わった瞬間に別空間移転魔法を家まるごと掛けた。
一瞬で家の中から禍々しい広い空間に様変わりした。
「くそ。いかれてやがる」
フェンリルが困惑した。
「いかれてなどいないよ。僕はなんでも手に入るこの家が大好きさ。君にもなんとしてでも手に入れたい物くらいはあるだろう?」
セルジュはもうフェンリルがほしくてほしくて堪らないようだ。
「おい! 俺は絶対に服従したりなんかしないからな!」
フェンリルが吠えた。
「それは残念だ。なら力尽くでいくまでだ」
セルジュが別空間の地面に魔法陣を浮かび上がらせた。
その大きさはチェコの魔法陣と比べても小さかった。
「出でよ! ビッグボアよ!」
セルジュが血を使わずにビッグボアを召喚した。
なぜなら一度でも契約したらその後の召喚に血は要らない。
「な! セルジュ! お前……嘘を付いていたのか」
フェンリルは驚いた。
なぜなら大蛇にやられていたビッグボアがそこに立っていた。
「嘘は付いていない。僕は嘘吐きなんかじゃない」
セルジュは激昂した。
「ちぃ! 戦うしかないのか」
フェンリルの本当のところは戦いたくなかった。
でも戦わないといけなかった。
どうするのか。フェンリルは。
「さぁ。ビッグボアよ。フェンリルを叩きのめせ」
セルジュによって開戦の合図は行われた。
これでビッグボアとフェンリルとの戦いは避けられない物となった。