第34話 リハビリの卒業訓練
次の日の朝。
チェコとフェンリルはシルヴィアの手料理を食べ終わるとセルジュの別荘の庭までやってきていた。
目的はリハビリを行う為だ。
「だぁかぁらぁ! 俺はもう大丈夫だぜ! セバスチャン!」
「そうはいきません。治療魔法は骨までは治せませんから。とくに複雑骨折となればことは一大事です」
「だぁかぁらぁ! これのどこが複雑骨折なんだよ? ほら! 見てみろよ! このとおり凛とした立ち振る舞いだぜ!」
フェンリルはもう大丈夫だと思わせようとその場をグルリと回った。
一回だけ回るとお座りして凛とした感じを伝えたつもりだ。伝え終わると立ち上がった。
「うにゅ。モフモフ。強い」
「そうですねぇ。この感じからして複雑骨折はないでしょうねぇ。そうですねぇ。では……リハビリの卒業訓練を行いましょう」
「なに? リハビリの卒業訓練だと? なんなんだ? それは?」
「簡単です。飼い主の言うことを素直に聞き即座に対応できるかを確認するだけです」
「セバスチャンよう。俺は犬じゃねぇんだわ。犬じゃ。折角のご好意だが俺はそんな簡単には」
「うにゅ。モフモフ。お座り」
「う!」
フェンリルはチェコの指示に従った。見事なお座りだった。
「お手」
チェコが言う前に右手を差し出した。
「う!」
勝手に右手がチェコの右手に乗っかった。
「伏せ」
フェンリルはそう言われるとお手をやめた。
「う!」
そして挙句の果てには平伏してしまった。
「おー! モフモフ。いいこ。いいこ」
「へへ。……じゃねぇえよ! なにやってんだ! 俺はよう! あーもう気が狂ったぜ!」
チェコが見事な芸当を見せてくれたフェンリルを褒めた。フェンリルは嬉しそうだった。だがすぐに我に返っていった。
「ふむぅ。どうやら異常はないようですねぇ。それはよかった。さて……これでリハビリは終了です。お疲れ様でした」
「うにゅ。お疲れ」
「うう。俺には犬権がねぇのかよ」
「うにゅ。ドンマイ。モフモフ」
「だぁー! お前にだけは慰められたくねぇ! うう。うう。俺の人生っていつからこんなにも不幸をみることになったんだ? トホホ」
フェンリルは自分の生い立ちを呪った。チェコに会ってから酷いことばかりだ。
確かにチェコの間にはそれなりの友情があった。だがそれはより不幸に誘う悪の正夢と化すのかも知れなかった。




