第30話 憤怒のチェコ
チェコはフェンリルを探した。
あとは森の広場だけだった。
そこにいなければ遠くまで家出をしていると言うことになる。
「はぁ。はぁ。はぁ。モフモフ」
普段は家に篭り最近ではフェンリルの背中ばかりに乗っているチェコが珍しく走って森の広場まできていた。
「は! モフモフ!?」
どうやら遂にチェコはフェンリルを見つけたようだ。チェコは慌てていた。
なぜならフェンリルが何者かに襲われているように見えた。
「モフモフー!」
チェコが珍しく大声を出した。しかもフェンリル目掛けて走り始めた。
「うん? だれだ?」
「へへ。遂にきちまったか」
「モフモフ。大丈夫?」
チェコはフェンリルのところまで近付き話し掛けた。チェコは普段見せない表情をしていた。
「へへ。大丈夫だぜ。ほんの掠り傷だ。ぐ」
フェンリルは強がってそうは言うけれどどう見てもチェコの魔法が必要だった。
「おい! そいつに近付くな! 君は何者なんだ?」
「チェコ。許さない」
「おい! 人の話を聴きなさい! 僕は」
「モフモフ。傷付けた」
「な、なんだ? この異様さは?」
「お前。許さない」
「う! なんだ? これは? は! ま、まさか! 君は!?」
「ここから……出ていけ」
「そうか。これが黒召喚魔法師か。ならば葬り去るまでだ。いざ。尋常に勝負」
「いいから……出ていけ」
「ふん。気迫は上々。だが我が使命に代えてでもその命は頂戴せねばならない。いくぞ」
謎の男が先手を打つようだ。急に走り始めた。
「うー。うー。うー」
チェコは魔法で宙に浮き始めた。そしてフェンリルに危害が及ばないように永久治癒結界を張った。
これで物理以外は防げるしちょっとずつだが治癒ができると言う素晴らしい魔法だった。
フェンリルの傷は深くチェコでも治せるかが分からなかった。だからここは安静にしておきたかった。
「僕が憎いかな。でもね。それはお互い様だよ……ね!」
謎の男が最後に合わせて人差し指でチェコに無詠唱の魔法を掛けようとした。効果は束縛だろう。
「うー。防ぐ」
謎の男の動きを先読みしていた。だからチェコも人差し指で束縛魔法を打ち消した。
「ほう。さすがは黒召喚魔法師だ。格が違うか。しかし」
謎の男はそう言い終わるとチェコの真下に魔法陣を出現させた。地面に魔法陣が浮かび上がる。
「うにゅ?」
「これは! 打ち消せまい!」
「逃げる」
チェコが逃げると言ったが時既に遅かった。チェコの周りに筒状の結界が縦に張られていた。
「う!?」
チェコは結界の壁に当たった。
「さて……と黒召喚魔法師が一人にフェンリルが一匹か。これは面白い。まぁ戯れ言はこの辺にして……と」
謎の男はそう言い終わるとフェンリルの方へと歩き始めた。
「うー。うー。うー」
チェコは怒り状態で興奮するとこのような感じになる。
「睨まれてもね。これが僕の仕事なんだ。悪く思わないでくれ。この黒従魔は僕が責任を持って元の世界に戻すよ」
どうやら謎の男は勘違いをしているようだ。
ただしフェンリルはまだチェコのペットではない。
だからこうなっても不思議ではない。
このままではフェンリルが元の世界に戻ってしまう。
チェコだけがフェンリルの頼みの綱だ。負ける訳にはいかなかった。