第21話 フェンリルの朝食は?
チェコは三十分も冷たい風に耐えていた。
家に着いた時には風邪を引きそうだった。
フェンリルとチェコは自宅に入って大接間にいた。
「うう。外。嫌い」
「そう言うなって。たまには運動もいいと思うぞ」
「うう。運動。嫌い」
「反抗期か。てめぇは」
「うう。モフモフ。嫌い」
「あっそ。それよりもだ。朝食はなんだ? 俺の朝食はあるんだよな?」
「うう。ない」
「だはぁー! そうだよなー! 俺は急に召喚された身だしな~。あったら変だよな~」
「うう。違う」
「うん?」
「うう。なかった」
「なにがだ?」
「モフモフ。ご飯」
「うん?」
「村。なかった」
「なるほど。俺の為に飯を用意したかったけどこの村にはなかったと言うことだな? チェコ?」
「うにゅ。そう」
「そうか。だったらどこで手に入るんだろうな。そう言えばなんでセルジュは持ってたんだ?」
「うにゃ。分からない」
「あ! そうか! セルジュはこの村の豪邸を別荘と言っていた。と言うことは実家のほうに売ってるのかもな」
「うにゅ。そうなのか」
「ここはセルジュに訊いてみるべきだな。おい。チェコだけでも食ってからいこうぜ」
「ここ。下りない」
「おっと。そうだったぜ。たっくよ。またあの体勢にならないと駄目なのか」
「うん。任した」
「んじゃ食事処にまでいくから案内してくれ」
「分かった」
チェコは言葉で案内することにした。そうでないとフェンリルには手振りが見えなかった。
実のところでチェコは料理をしたことがなかった。ならどうしたのか。
それはいつもシルヴィアがきて料理をしてくれていた。
だからド天然のチェコが台所に立ってもなにもできない。とそんな時にシルヴィアがきたのだった。
シルヴィアが絶妙なタイミングできてくれなかったらチェコはへたくそな料理を作っていただろう。
「おお。女神様」
いつもチェコはシルヴィアのことをこの時だけはそう呼んでいた。
料理ができない自分よりもシルヴィアに任した方が美味しい。
「フフ。チェコちゃんはいつも大袈裟ね。でもそう言ってくれると私も作りがいがあるわ」
「シルヴィアおねぇさんは俺達の救世主だぜ。全くよう」
「あら? モフモフちゃん? 昨日よりも毛並みがよくなってない?」
「うにゅ。気が付いた」
「なんでもよう。シャンプーで洗われたらこの毛並みになった訳よ。惚れるなよ」
「あはは。面白い冗談を」
「ふ。冗談じゃないんだぜ。シルヴィアおねぇさん」
「モフモフの馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿」
「いた! いたた! 痛いだろうが」
フェンリルはチェコに四回も頭を叩かれた。
「チェコ。悪くない」
「なんだよ。ただの嫉妬だろう?」
「嫉妬。ない」
「嘘を付くなよ。チェコ」
「まぁまぁ喧嘩になる前にそこら辺にしておいて。それよりもできたわよ。料理が」
シルヴィアが仲裁に入った。ついでにシルヴィアお手製の料理もできたらしい。
「おお。美味しそう」
「どれどれ。おお。確かに美味そうだ」
フェンリルはチェコが落ちない程度を維持しながらテーブルに両足を乗せた。
「モフモフちゃんには申し訳ないけれどこれは人間用なのよね」
シルヴィアが残念そうに言い始めた。
「かぁー! 俺も人間だったら今頃シルヴィアちゃんの手料理を食えたのにな~! 残念だぜ!」
「それに……この村には犬用のエサもないのよね~。実に不便ね」
「モフモフ。食べる」
「あー! 分かったよ! 椅子の上で伏せればいいんだろ? たく」
そう言い終わるとフェンリルは二つの椅子の上に乗って伏せ始めた。
「わお! なんだか斬新な食べ方ねぇ」
「うん。斬新」
「俺のプライドはズタズタだけどな! ってそれよりも早く食え!」
「うん。分かった」
「フフ。遠慮せずに食べなさいな」
「うにゅ。任せろ」
こうしてチェコはフェンリルよりも先に朝食を食べるのだった。




