第19話 モフモフベッド
くっさーからフッサーになったフェンリルは見違えるように凛としていた。
これぞフェンリルだろうと言える。
「ふはぁ~。まだかよ。チェコ」
「まだ」
「かぁー! 眠い! 早くしろよな~!」
「風呂。ゆっくりしたい」
チェコは今浴槽に湯を張ってのんびりとしている。
一方のフェンリルは脱衣所でチェコが出てくるのを待っていた。
「ゆっくりって……もう伏せてから何十分だよ?」
「忠犬モフ公」
「あん? チェコ? なんか言ったか」
「うにゅ。なにも言ってない」
「ふはぁ~。眠い。寝てしまいそうだぜ」
フェンリルは頭を床に垂らしている。今にも眠りそうだった。
「うにゅ。モフモフ。あともう少し」
「おお! そうか! そうか! 俺も待った甲斐があるってもんだぜ!」
「忠犬モフ公」
「あん? チェコ? さっきからなんか言ってるのか」
「うにゅ。なにも言ってない」
チェコは言わなかったことにした。理由はド天然だから分からない。
「そうか。ならいいんだけどよ。そろそろ出ねぇか」
「出る。退いて」
「お? 出るのか。なら俺はここから出よう」
フェンリルは脱衣所から出ていった。
脱衣所はお風呂場と廊下の真ん中にあった。
フェンリルは今廊下にいた。
チェコが見えないように出入り口の横に座っていた。
「なぁ! チェコ!」
「うん? どうした?」
「あ! いや! なんでもねぇよ! ただ呼んでみただけだからよう」
「モフモフ。不思議」
フェンリルは見えないチェコを気遣った。それだけのことだった。
「ふぁ~。それよりも眠いぜ」
「めっ! モフモフ!」
「つってもよう。今日は疲れたぜ。色々とな」
「うん。モフモフ。頑張った」
「ああ。チェコもな。今日は……ぐっすり眠れそうだぜ」
「モフモフ。寝よ」
チェコが脱衣所から出てきた。寝間着を羽織って。
「お! ようやく出てきたか! んじゃ寝床に向かうか」
「うにゃ。待て」
「う!」
「伏せ」
「う!」
「よしよし。いいこ。いいこ」
「ふぅ~。そう言うことか。そうだよな。確かにそうだよな。チェコの寝床と言えば俺の背中だよな。ああいいさ。それで? どこで寝ればいいんだ? 俺は?」
「どこでも」
「そうだな。だったら大接間で寝るとするか。チェコ。風邪だけは気をつけろよ」
「うにゃ。任せろ」
「んじゃ向かうとするか」
「モフモフ。好き」
チェコはそう言い終わるとフェンリルの背中に抱き付いた。
もうここがベッドだと言わんばかりに。
こうしてチェコはだれよりも先に深い眠りにつくのだった。
その後にフェンリルが大接間で寝ていた。