第18話 就寝前のシャンプー
フェンリルはチェコを背中に乗せてお風呂場に向かった。
お風呂場のドアは引き戸だった。だからチェコが開けた。
「クンクン。ここが風呂場か」
「うん。風呂場」
「んで? どうするんだ? チェコ?」
「モフモフ。下りる」
「お? ようやく下りるのか」
「うん。下りる」
「ほらよ。伏せてやったぜ」
「有難う。モフモフ」
チェコはようやくフェンリルの背中から下りた。
フェンリルはチェコが下りたのを確認してから立ち上がった。
「んじゃ」
「おう」
「まずはぬるま湯で濡らす」
「なにをだ?」
「モフモフを」
「ぐ!? 俺は別に不潔でもいいかなって思ってるんだぜ? その方がワイルドで女性受けが」
「よくない」
「う!」
「ぬるま湯。苦手?」
「ああ。もう。違うぜ。俺は濡れるのが苦手なんだよ」
「モフモフ。めっ!」
「う! 分かったよ。今日は我慢するぜ」
フェンリルは嫌々だったが仕方なくぬるま湯に濡れることにした。
「んじゃこっちきて」
「ぐ。分かった」
フェンリルはこれから濡れると思うとなぜか緊張してきた。渋々チェコの後を追った。
チェコは手に持っていた試作犬用シャンプーを床においた。後で使うので今は必要なかった。
「ぬるま湯。かける」
「う!」
「耳。気をつけて」
「分かった。気をつける」
「全身。濡らす」
「うう。嫌だぜ」
「めっ! モフモフ。我慢」
チェコがフェンリルにぬるま湯をかけていると次第に口が三角になっていった。
「だぁー! 身震いしてぇーい!」
「モフモフ。我慢」
「お? 濡らすのは終わったのか」
「うん。終わった」
「それで今日はもうこれでおしまいか」
「うにゃ。まだある」
チェコはそう言い終わるとシャワーで桶にぬるま湯を張り始めた。
十分に桶の中にぬるま湯が張られたらシャワーがでないようにとめた。
その次にチェコは床において試作犬用シャンプーを手に取った。
「じゃじゃーん」
「なんだ。それ」
チェコがシャンプーの液体を両手の上に乗せてフェンリルに見せた。
するとフェンリルがしらけた様子で言ってきた。
「これを」
「うん?」
「こうする」
チェコは言い終わると桶の中のぬるま湯に両手の上のシャンプーを混ぜ始めた。
十分に泡立ち始めるとチェコは見計らったようにフェンリルを洗い始めた。
「お、おい! やめろよ! くすぐったいじゃないか!」
チェコはフェンリルの毛皮に優しく泡立つように手洗いし始めた。
「モフモフ。我慢」
「つってもよう。こんなにくすぐったいんじゃクシャミも出るぜ。へっ、へっくしゅん!」
「なぜ? そうなる?」
「お? 終わったのか。んじゃ後は流すだけだろう?」
「うにゃ。まだ」
「かぁー! まだあるのかよ! 俺の痺れが切れそうだぜ!」
「こうやって」
チェコはそう言い始めるとフェンリルの毛皮を何度も手洗いし始めた。
か弱い手が印象に残る。そんなチェコはフェンリルでは掻けないところを重点的に洗った。
「かぁー! いいな! それ! 是非とも! 痒くて届かないところもやってほしいぜ!」
「うん。それ。する」
「かぁー! 助かるぜ! んじゃ耳の後ろとか頼むぜ! チェコ!」
「分かった。やる」
「かぁー! 気持ちが晴れやかになる気分だぜ! チェコ! 最高だぜ!」
「ふぅ~。後……流すだけ」
「ぬるま湯でか。こんなにも清々しくなるのならこれからも頼むぜ。チェコ」
「分かった。んじゃ流す」
「頼むぜ。チェコ」
こうして泡だらけになったフェンリルはおっさん臭さは洗い流せなかった。
だけど綺麗になる為に全身の泡をぬるま湯で流した。
チェコはぬるま湯でフェンリルの全身の泡を流す時に口が三角になるようだった。
癖のようだから本人も気付いていなかった。
フェンリルは我慢ができなくなったのだからお風呂場で身震いした。
チェコは怒るどころか。むしろ楽しんでいる様子だった。
その後のフェンリルは全身をずぶ濡れにされて最早ただの犬と化していた。
だけどフェンリルはチェコの魔法で一瞬にして乾かされたのだった。