第16話 やせ我慢の女王の限界
今はフェンリルが晩飯を残さずに食べ切った頃だ。
どうやらチェコの限界がきていた。
「うがー」
「ぎゃぁあああ!」
「うん? どうしたんだい?」
「チェコが! チェコが! 俺の頭に喰らい付きやがった!」
「はは。なんだ。そんなことか」
「だって……お腹空いた」
「ならそうと言えよ。早く」
「食事。邪魔できない」
「そこはマナーがいいんだな。とまぁ俺は食い終わったし食べるか。チェコ?」
「うん。食べる。でも」
「うん?」
フェンリルが謎めいた。
「ここは退かない」
「そうか。そうか。なら仕方がない。っておい! 退かなきゃ食えねぇだろうが!」
「うにゃ。食べれる」
「確かに食べれるね」
セルジュが会話に入ってきた。
「おい。どうやったらチェコが食べれるんだよ?」
「簡単。簡単」
「フェンリル君。君は僕のことを無能呼ばわりしたけど君も大概あれだね。ここは君が椅子を二つ使って横に伏せればいいんだよ」
「ああ。なるほど。横に伏せればいいのか。でも……どうやって動かすんだ?」
「仕方がないね。友達を助けてあげよう。ここは僕に任してくれ」
セルジュはそう言い終わると立ち上がりチェコの料理の周辺にある椅子を動かし始めた。
二つの椅子を丁度いい隙間を残しておいた。
「できたよ。さぁ。これでチェコは食べれる筈だよ」
「たっくよ。我が儘な女王様だぜ。どっこいしょっと」
フェンリルは愚痴を零しながらも椅子に乗った。そして二つの椅子を跨るように伏せた。
「どうだ? これなら食えるだろう? なぁ? チェコ?」
「うん。食べれる」
「言っとくが俺の上で料理を零したら怒るからな」
「任せろ」
「んじゃ食べるといいよ。好きなだけね」
セルジュの許可が出た。その瞬間にチェコは片側椅子のように座り相当な勢いで食べ始めた。
「はは。そんなに勢いよく食べたら喉に詰まるよ?」
「たく。早く食べろよな。俺だって辛いんだからな」
「うにゃ。どっち?」
「いいから自分のペースで食え!」
フェンリルが先に言った。
「任せろ」
「どうだ? 美味しいか」
「うにゅ。美味しい」
「はは。それはよかった。……おい! チェコのフルコースを頼む!」
セルジュは残っていたメイドに命令した。
「はい。畏まりました。早急にお持ちします」
そう言い終わるとメイドは部屋から出ていった。
「ささ! 遅れた分を取り返してくれ!」
「うにゅ。任せろ」
「はは。食事も頼もしい限りだ」
「本当に……やせ我慢しやがって」
「おかわり」
チェコは上流貴族のマナーを知らない。だから自宅にいるような感じで言った。
「おいおい。ここはお前の家じゃないんだぞ?」
「はは。すまないなぁ。もうそろそろくるからもうちょっと待っててくれないかな」
「うん。待つ」
こうしてチェコはやせ我慢の女王からただのマナー知らずの少女に変わったのだった。