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The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
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第7話 協力

  「井沢、皆んなを集めたぞ・・・どうするんだ?正直に話すのか?」


  翌朝、父は集落の大人達を集会所に集めた。

  誠治がなぜここに来たのか、理由を話す為だ。

  だが、父は少し不安そうに誠治を見ている。


  「隠していてもどうせ明後日にはバレますからね・・・その時になって揉めるより、今話して理解を得た方が良いでしょう・・・」


  誠治はため息をついて答えた。

  彼も心なしか不安そうに見える。


  「誠治さん、頑張ってね・・・」


  「おっ、貴宏君から応援されたとあったら、俄然やる気が出て来た!」


  彼は、笑いながら僕の頭を撫でた。

  父よりも大きな手のひらをしていて、少し乱暴だったけど、何故か安心出来た。

  父親の手というのは、こういうものなんだろうか。


  「んじゃまぁ、行って来ますかね・・・」


  彼は左手で頭を掻きながら、皆んなね前に歩み出た。

  皆んなは見知らぬ彼を見て、珍しげに話している。


  「皆さんこんにちは、私は井沢 誠治と申します。後ろに居る杉田さんの大学時代の後輩です。今回私がこちらに伺ったのには理由があります・・・それは、皆さんを安全が確保されている九州・四国・北海道へと避難させる事です・・・」


  「安全な場所があるのか!?」


  「何故九州や四国は無事なんだ・・・?」


  皆んなは、誠治の言葉を聞いて驚き、口々に彼へ質問を始めた。


  「皆んな、まずは黙って彼の話を聞いてやってくれ・・・質問はその後で頼む」


  見かねた父は皆んなを止めた。


  「ありがとうございます先輩・・・。まず、九州などが安全である理由ですが、それは本州とは海で隔てられているからです。唯一の陸路は橋かトンネルだけですが、今はどちらも閉鎖して奴等の進入を防いでいます。1年前のあの日以来、世界中の国々の首都近辺で奴等が現れました・・・陸続きの国々は奴等の侵攻を防げず、殆どの国が壊滅状態にあります。日本は4つの大きな島と無数の小さな島から成り立っている稀有な国です・・・政府は、関東を中心に起きた今回の事件を受け、まず自衛隊を本州から退避させ、九州・四国・北海道の防衛に徹底させました・・・そうする事により、この国には安全地帯が確保出来たのです・・・。現在、自衛隊は本州奪還と生存者救出の為、多くの部隊を各地に派遣しています。私はあの事件の後、仲間と共に関東から脱出しました。今は、国が運営している、民間人中心で構成される組織の九州支局長を任されています。その組織は、自衛隊や警察のサポートが主な仕事ですが、今回私は自衛隊からの依頼で、皆さんへの説明と説得のために伺ったのです・・・」


  誠治が話し終わると、その場に沈黙が流れた。

  皆んな動揺を隠せず、何を言って良いのかわからないのだろう。


  「あんたの仕事はサポートが主なんだろ?なんで今回はあんな危険を冒してまであんたが来たんだ?自衛隊が直接来れば良いじゃないか!」


  長い沈黙を破り、1人の男性が誠治に問いかけた。


  「自衛隊を快く思わない方達がいらっしゃるのです。自衛隊は一度民間人を見捨てた・・・その事実は変わりません。ですが彼等自衛隊は、政府の指示で我々を見捨ててしまった事を恥じ、今現在は生存者を救出するために、寝る間も惜しんで各地を奔走しています。ですが、それでも彼等を許せない方達が少なからずいらっしゃるのです・・・もし自衛隊が直接来た場合、そういった方達と揉め事になってしまう可能性がありますから、民間人であり、戦う事の出来る私が選ばれた訳です・・・」


  彼は皆んなの反応を見ながら答える。


  「自衛隊も近くに来てるのでしょうか・・・?」


  女性が誠治に問い掛ける。

  咲の母親だ。

  彼女は咲を抱いたまま、我が子を不安そうな表情で見ている。


  「今は洋上の護衛艦で待機しています。ただ、私をここに送ってくれた隊員達とは現在連絡が取れません・・・彼等は私からの連絡があるまで、近くの安全な場所で待機をしているはずでしたが、昨日私がここに着いた後から連絡が取れなくなりました・・・」


  「そんな・・・!」


  「俺達の救出は無理なのか!?」


  皆んなは不安を口にする。

  上げて落とされたのだから仕方のない事だ。


  「安心してください!私達からの連絡がなかった場合、明後日には状況確認のため、彼等がこちらに来る事になっています!ただ、皆さんを収容するためのヘリは、少なくとも2機必要です・・・私が今朝確認した限りでは、この場所には2機が同時に着陸するためのスペースがありません。入れ替わりで収容する場合、音で奴等が集まる恐れがあります。もしその中に素早い個体が多数いた場合、バリケードも安心とは言えません・・・。私はこの後外に出て消息を絶った自衛官達を探し、彼等の長距離無線機で洋上の護衛艦にその事を伝えに行くつもりです。その間、皆さんは必要最低限の物をまとめ、ここを離れる準備をしていて貰いたいのです!」


  彼は皆んなに話終わり、深く呼吸をした。

  皆んなはしばらく彼の様子を見た後、互いの顔を見合わせて迷ったように頷き合っている。


  「わかった、あんたの言葉を信じよう・・・あの用心深い杉田さんが信じてる相手だからな!嘘を言ってる訳じゃ無さそうだし、せっかく来てくれたのに、このままじゃあんたも帰れなくなるからな!出来る事は協力するから、何でも言ってくれ!」


  「そうね・・・ここに居続けたままじゃ、いつ迄安全かわからないし、何より子供達を安全な場所に連れて行ってあげたいもの!私達より、子供達の事をよろしくお願いします・・・」


  皆んなは少し照れたように笑顔になり、誠治に頭を下げた。


  「 私にも、家族が居ます。妻と子供が3人・・・娘が2人と息子が1人います・・・皆さんがお子さん達を心配される気持ちは痛い程良くわかります。ですが、あなた方が居なくなってしまっては、子供達が悲しみます・・・やはり、子供は親と一緒にいるのが一番です!ですから、私は皆さんの事も救いたい・・・!私1人の力では難しいかもしれません・・・助けに来て頼むのは申し訳ないですが、皆さん、ご協力お願いします!」


  彼が深々と頭を下げると、皆んなは彼に近寄り、口々に言葉を掛けている。

  皆んなに囲まれた彼は、一人一人に笑顔で礼を言っている。

  父はそれを見て安堵した様に笑顔で頷いている。

  

  「誠治さん、よろしくお願いします!」


  「あぁ、任せろ!こう見えてもやれば出来る子って言われてたからな!奴等に父親の底力を見せてやるよ!!」


  僕が近寄り声を掛けると、彼はしゃがんで僕の頭を撫で、力強く頷いた。






  「井沢、そろそろ行こうか・・・」


  誠治が皆んなへの説明を終えて戻って来ると、父が彼に提案した。

  今から父達は、消息を絶った自衛官を捜しに行くのだ。


  「徒歩では時間が掛かりますし、何より新個体と出くわしたら危険です・・・車はありませんか?出来ればハイブリッド車が良いんですが」


  「ハイブリッド車なら何台かあるぞ?何でハイブリッドにこだわるんだ?」


  父が彼に聞き返す。

  車なら何でも良さそうではあるが、彼は何故かハイブリッド車にこだわった。


  「ハイブリッド車なら音が少ないですから、奴等に気付かれにくいんですよ・・・俺が関東を離れる時は、全てのガラスにスモークフィルムを貼った上に、カーテンを付けてましたよ。これはかなり効果がありました・・・奴等は基本、目と耳で獲物を確認しますから、フィルム等で視覚を遮断し、音の少ないハイブリッド車でやり過ごすしたんです」


  彼は父に説明した。

  彼はかなり場数を踏んでいる。

  今まで経験した事や学んだ知識の量は、ここに居る人達とは段違いだ。

  経験や知識はそれだけでも立派な武器になる。

  これから彼と一緒に外に出る父にとっては、この上なく頼もしい味方だ。


  「やはり経験の差は否めないな・・・足を引っ張らないように気をつけるよ・・・」


  「何言ってんですか先輩!頼りにしてますよ!」


  彼は苦笑する父に明るく答えた。


  「お前は今までどの位奴等を倒して来たんだ?少なくとも昨日だけで50体は倒してるだろ?」


  「そうですね・・・数えてはいませんが、九州に行くまでに200以上、この仕事に就いてからは少なくとも500以上ですかね?組織が作られてからまだ半年程ですが、月に1回は自衛隊と一緒に各地を回ってましたから、その度にだいたい100位は倒してますよ・・・」


  僕と父は、彼の言葉を聞いて愕然とした。

  恐らく、今回の任務を合わせると1000体に届く数字になりそうだ。

  戦い慣れているとは思っていたが、まさかここまでとは予想していなかった。


  「お前は凄いな・・・家族の為、仲間の為、ここの人達のような赤の他人に為・・・。どれだけ自分を犠牲にするつもりだ?」


  「先輩・・・実は、俺は九州に行くまでに5人殺してるんです・・・そいつらは俺や仲間達を襲って来ました。だから殺した・・・その事に後悔は無かったんです・・・。でも俺は、そいつらを殺した事で人の道を外れてしまったんです。そいつらだって、世が世なら普通の生活をしていたかも知れません・・・それを俺は殺したんです・・・自分や仲間を守る為に。だから俺がこうして戦うのは、俺が殺したそいつらに対する罪滅ぼしなんですよ・・・」


  彼は肩を竦めて語った。

  僕は彼の言葉が信じられなかった。

  僕の中での彼の印象は、強く、優しく、そして家族思いで、戦っている時以外はちょっと残念な人だ。

  そんな彼が人を殺したなんて信じたくなかった。


  「そうか、こんな状況だからな・・・人は良くも悪くも変わってしまう。俺もお前もそうだ・・・。確かに人を殺した事は、人の道に反する事かもしれない・・・だが、私利私欲では無く、仲間や自分が生きる為なんだろう?俺だって貴宏が同じ状況になったら、人を殺すかもしれない・・・ただ、俺は運良くそういう状況にならなかっただけだ。だから、お前は自分を責め過ぎるな・・・お前が無理をして死んでしまったら、残された家族はどうする?若くて美人な奥さんと、可愛い子供達が待ってるんだろう?」


  「ははは・・・そうですね・・・肝に命じますよ!さて、じゃあ車を探して外に行きましょうか!」


  「あぁ、よろしく頼む!」


  父達は頷きあい、僕に手を振って歩き出した。

  僕は父達の後ろ姿を見て、不安な気持ちを抑えつけ、笑顔で見送った。

  

  

  

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