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The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
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第5話 千枝ちゃんを見守る会

話が貴宏に戻ります。

  「それにしても井沢・・・お前に何があったんだ?右目と右手はどうした・・・?」


  父が正面に座ったいる男性に遠慮がちに尋ねた。

  その男性は、身長が父よりも頭一つ分高く、右目には眼帯を着け、右手首から下がない。

  彼はそんな状態で迫り来る奴等を圧倒していたのだ。


  「あぁ、これは・・・1年前、四国で知り合った女性自衛官を助けた時に、奴等に右手を噛まれまして・・・。直ぐに右手首を切断したんですが、その時にマチェットが折れて、右目に刺さったんですよ・・・」


  彼は左手で頭を掻きながら恥ずかしそうに答えている。


  「やけにあっさりと答えてるが、気にしてないのか?」


  「俺が助けなければ、その女性自衛官は死んでましたからね・・・右手首と右目で済んだだけでもお釣りが来ますよ!」


  彼が笑いながら言うと、父は呆れていた。


  「お前は今、四国に住んでるのか?」


  「いえ、俺は九州の実家で妻や子供達、それと仲間達と一緒に暮らしています。ここに来たのは、生き延びた人達を安全が確保されている九州・四国・北海道へ連れて行くためです」


  「安全な場所があるのか!?」


  父は勢い良く椅子から立ち上がった。


  「はい・・・その3ヶ所は自衛隊や警察、それと俺の所属している民間人から構成されている組織によって、安全が確保されています。俺は今回、自衛隊に頼まれてここに来ました」


  「何故自衛隊が直接来ないんだ?」


  父の言葉に、彼はため息をつく。


  「生存者の中には、自衛隊に恨みを持った方々がいるんですよ・・・自衛隊は、我々民間人を一度見捨てている。彼等は、九州・四国・北海道の防衛の為に撤退し、本州の民間人を見捨てた・・・そして、1年以上もの間救助活動も出来なかった。そんな自衛隊を許せない人達がいてもおかしくないんです・・・」


  父はそれを聞いて椅子に座り直した。


  「確かにその通りだ・・・ここに住む人達の中にも、自衛隊を恨んでいる者がいるからな・・・」


  「でしょうね・・・だからこそ、俺が来たんですよ。同じ民間人の俺の言葉なら耳を傾けてくれるかもしれない・・・自衛隊が直接来て刺激するよりは良いですからね」


  「そうだったのか・・・だが、まさかお前とこんな形で再開するとはな!さらに強面になってて驚いたぞ!しかも何だあの挨拶は?あの状況で、あんなふざけた挨拶をするとは思わなかったぞ?」


  父が苦笑しながら言うと、誠治は照れていた。


  「いやぁ、だってあんな状況だと皆んな不安だろうし、和ませようと思ってですね・・・」


  「和むどころか、命知らずの馬鹿が来たと思ったぞ!貴宏も唖然としてたからな!」


  「酷いですよ先輩・・・」


  父達は笑っている。

  仲が良い事がわかり、僕は安堵した。

  恩人に対して失礼ではあるが、誠治と言う男性はかなり見た目が怖い。

  だが、父と話して笑っている姿は、見ていて安心出来る不思議な雰囲気がある。


  「そう言えば奥さんと子供がいるんだったな、いつ結婚したんだ?」


  「去年ですよ。俺が関東から脱出する時の仲間で、俺とは14歳離れてます。妻は今年21歳ですよ!それと、子供は3人です!長女は妻の妹でした・・・その子は妻の母親の再婚相手の連れ子で、まだ8歳だったので養子に迎えました・・・下の2人は男の子と女の子の双子で、まだ生まれて数ヶ月ですね!」


  彼は嬉しそうに語っている。

  優しい表情からは、彼が家族を愛している事が伺える。


  「井沢・・・まさかお前がロリコンだったとはな・・・」


  「ちょっと待って!何でロリコン!?妻は成人してますよ!!確かに妻は若いですけど、ロリコンは酷いですよ・・・。そう言えば、先輩の奥さんや他のご家族はどうされたんですか?」


  彼の言葉に、僕と父は表情を曇らせた。

  それに気付いた彼は、申し訳無さそうに頭を下げた。


  「先輩、貴宏君・・・すみませんでした・・・」


  「いや、もう1年も前の事だからな・・・妻は、奴等に襲われそうになった貴宏を守って死んだんだ・・・。俺が離れたばかりに貴宏を危険に晒し、妻を死なせてしまった・・・。さっき言ってたが、お前も親しい人達を亡くしてるんだろ?だからお互い様だ・・・気にするな」


  「ありがとうございます・・・確かに、俺も親しい人達を亡くしましたよ・・・。当時付き合っていた彼女、その両親、妻の兄、俺の仲間の兄・・・九州に帰ってからも、自衛隊と行動を共にしてる中で沢山の人達を亡くしました・・・」


  「そうか・・・いつかは乗り越えなければいけないとは解っていても、やはり親しい人間の死は何度経験しても慣れないものだよな・・・。そう言えば、お前の家族の写真はあるか?お前の自慢の若奥さんを見せてみろ!」


  父は気を取り直して笑顔で彼に言った。

  彼も一度深呼吸をして、笑顔になった。


  「おっ!見ちゃいます?俺の可愛いハニーと天使達を見ちゃいますか!?」


  「うるせぇ!惚気は良いから早く見せろ!」


  父達は笑い合い、誠治は上着の内ポケットから手帳を取り出し、中に入っていた写真を僕と父に差し出した。

  そこには数人の男女が写っていた。

  写っている女性は皆んなタイプは違うが、かなり美人だった。

  中でも、誠治と茶髪の女性の間で笑っている女の子に目が釘付けになってしまった。

  髪が長く、髪質がふわふわと軽く柔らかそうで、少しタレ目気味の目が朗らかな雰囲気を醸し出す美少女だ。


  「何だよ美人揃いじゃないか?どれがお前の奥さんだ?」


  「こっちの茶髪で軽くウェーブのかかったロングヘアの女性が妻の美希です!どうですか、若くて可愛いでしょう!?それと、俺と妻の間に居る女の子が妻の妹だった長女の千枝、俺と妻が抱いてるのが俺達の実子の悠枝と夏菜枝です!どうです?天使度高いでしょう!?」


  「あぁ、お前以外は可愛いな!」


  「先輩酷いですよ・・・ただでさえ、最近家族や仲間内での俺の扱いが雑になってきて凹んでるのに・・・。ん?貴宏君どうした?何か気になる物でも写ってる?・・・まさか幽霊じゃないよね!?」


  項垂れていた彼は、僕が見ていた写真を覗き込み、慌てて確認している。


  「貴宏・・・お前、千枝ちゃんに惚れたな?」


  父が僕の表情を見て、珍しくニヤケながら言ってきた。

  僕は恥ずかしくなり、俯いた。

  自分でも顔が火照っているのがわかるほどに恥ずかしくなった。


  「おっ!貴宏君はお目が高い!千枝は優しくて甘えん坊だから、小学校でも男女共にかなりの人気でね!俺の所属してる組織には、千枝ちゃんを見守る会って言うファンクラブがあるくらいだよ!もちろん名誉会長はこの俺だ!!貴宏君も入るかい!?だが、会員ナンバー1番は誰にも譲らないよ!!」


  彼は椅子から勢い良く立ち上がり、胸を張っている。


  「井沢・・・それは無いわ・・・。いくら可愛くても、そこまでしたらダメだろ?」


  「何を言ってるんですか!?俺には、可愛い娘のおはようからおやすみまで暮らしを見つめる義務があるんですよ!?この写真見てください!ここの2人!黒髪のショートヘアの美人とこの厳つい男は夫婦なんですが、この2人も見守る会の会員なんです!!」


  僕と父は彼の勢いに気圧され、言葉に詰まった。


  「見守る会の結成時には、妻からキツイお仕置きを受けましたが、土下座をしてやっとの事で許可を得たんですよ!話しをした後、妻と千枝が3日口を聞いてくれなかった時は死のうかと思いましたよ・・・」


  彼は遠い目をし、目元に涙目を浮かべながら遠い目をして締めくくった。

  正直、この人は戦っている時以外はダメな人だと思ってしまった。


  

  

  

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