第34話 不安
楽しい宴から一夜明け、この町を脱出する日を迎えた。
俺は緊張からかいつもより早く目を覚まし、レザージャケットとチャップス、フルフェイスのヘルメットという定番化している格好に着替え、杉田宅を出た。
「少し外を見て回るか・・・」
今は12月、陽の登りが遅く、真夜中ほどでは無いがまだ少し暗い。
いつもであれば、こんな時間に外の見廻りに出る事は無いのだが、今日は失敗が許されない・・・少しでも安全を確保しておく必要がある。
「永野さん、おはよう」
「うわっ、井沢さん!?黒尽くめで見えなくて驚いたじゃないですか・・・。相変わらず朝が早いですね・・・」
見張りをしていた永野に話しかけると、あからさまに驚き、俺を睨んだ。
朝とは言え、まだ暗い中では俺の格好は目立たないだろう。
「ごめんよ・・・。まぁ習慣になってるし、こればっかりは仕方ないよ」
俺が肩を落として答えると、永野は笑っていた。
「またそんな格好して、今日はどうしたんですか?」
「ちょっと外の見廻りをね・・・今日は失敗が許されないから、少しでも周辺の安全を確かめたいんだ」
「流石にまだ早くないですか?見ての通り暗いですし、もう少し待った方が・・・」
永野は不安そうに俺を見る。
「あと少しで陽が昇るし大丈夫だよ・・・それに、この暗さなら奴等にも俺を見つけるのは難しいだろうからね。永野さんだって、俺が話し掛けるまで気付かなかっただろ?奴等は獲物を目と耳で判断しているけど、視力はあまり良くないから、物陰から様子を伺う分には問題ないよ。今奴等は運動公園の方に向かってるだろうから数は少ないと思うよ」
「それを言われると返す言葉に困りますね・・・まぁ、井沢さんなら心配ないでしょうけど、気を付けて行って来てくださいね?」
永野はそれ以上何も言わず、門を開ける。
永野と見張りをしていた住民達は心配そうだったが、俺は軽く手を振って門を出た。
「本当スピーカー様々だな・・・全く奴等がいないじゃないか」
俺は集落を出てからしばらく周辺の見廻りをしたが、3ブロックほど離れた位置まで来ても、奴等は全くいなかった。
遠くから聞こえるスピーカーの音以外は物音一つせず、不気味な程の静寂が辺りを包んでいる。
「陽も昇ったしそろそろ帰るか・・・先輩は起きてるだろうし、あまり遅くなったら心配掛けるしな・・・」
俺が見廻りを切り上げて集落に帰ろうとすると、帰り道であるものを見つけた。
真新しいタイヤ痕だ。
初めに通った時には暗くて見落としていたが、タイヤのサイズからして中型の車両・・・それこそ、昨日消えていたダンプと同じ位のサイズだ。
「あの男か・・・?」
俺はそのタイヤ痕を見て、急に不安に襲われた。
集落の近くには生存者が暮らしているような場所は無いと貴之は言っていた。
いるとすれば、俺が見逃した男とその仲間くらいだろう・・・。
この場所にタイヤ痕があるという事は、集落の様子を見に来ていた可能性もある。
襲撃に来ていた仲間の安否を確認しに来ただけなら良いが、何かをしようと画策しているのだとしたら厄介だ・・・。
「櫻木さんに報告しとこう・・・」
俺は不安に駆られながらも、その場を急いで離れ、集落に帰った。
「おはよう井沢・・・どこに行っていたんだ?」
杉田宅に戻ると、貴之が朝食の準備をしながら俺に聞いて来た。
少し不機嫌そうなので、俺が外に出ていた事を知っているのだろう。
「昨日の事が気になって、少し外を見て来ました・・・」
「永野さんから聞いたよ・・・。いくらお前が慣れてるとは言っても、あまり心配をさせないでくれ・・・もしお前に何かあったら、お前の奥さんや子供達に会わせる顔がないだろう?それで、何かあったか?」
貴之はため息まじりに俺を見て注意し、見廻りの結果を聞いて来た。
「はい・・・真新しいタイヤ痕を見つけました・・・恐らく、昨日消えていたダンプの物かもしれません」
「それは気になるな・・・」
「えぇ、仲間の安否を確認しに来ただけなら良いですが、念の為連絡しておいた方が良いかもしれませんね・・・」
貴之は黙って頷き、俺と貴之は朝食の準備をしつつ櫻木達が起きるのを待った。




