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The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
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第33話 最後の夜

  僕達は家に帰り着き、急いで明日の準備を始めた。

  父が誠治達と一緒に外に出ていたため、まだ何も準備出来ていなかったのだ。

  櫻木も手伝いをしようとしたが、彼は玉置と交代で見張りをする事になっていたため、明日の準備は僕と父、誠治、玉置で済ませた。

  永野は途中で起きたため、改めて休ませた。

  今夜の見張りも永野が担当するため、少しでも寝させたいと玉置が気遣ったのだ。


  「忘れ物は無さそうですか?もし忘れたら、しばらくは取りに戻れませんよ?」


  一通り準備を終えると、誠治が確認をする。

  すると、父は渋い顔で誠治を見た。


  「井沢、そう言われると不安になるんだが・・・」


  「あはは!まぁ今思い出さなくても、明日の朝もう一度確認すれば何か思い出すかもしれませんよ?」


  「そうだな・・・明日もう一度確認してみよう。さて、そろそろ夕飯の時間だな・・・ここに滞在するのも今日までだし、今夜は少し贅沢しようか?」


  誠治に宥められた父は、笑顔になって言った。


  「なら、公園で皆んなで食べませんか?食材を持ち寄って皆んなで食べれば楽しいと思いますよ?まぁ、皆んなの準備が出来ていればですが・・・」


  「ふむ、それも良いな・・・ここでの生活も最後だし、折角なら最後は皆んなで食べるのも良いかもしれないな。見張りの者達には差し入れをすれば良いし、ちょっと聞いてくるよ」


  父はすぐに家を出て住民達に聞きに行った。


  「井沢さんにしては良い提案ですね」


  「ちょっと何なのよ?その井沢さんにしてはってのは・・・何だか酷くない?誠治君ショックよ?」


  玉置の言葉を聞き、誠治はジト目で彼女を睨む。


  「それはすみません。でも、良い提案だと思いますよ?四国に着いたら離れ離れになる人達もいるでしょうし、今迄苦楽を共にしてきた人達ですから、募る話もあるでしょうしね・・・。それに、私は彼等に互いの笑顔を覚えていて欲しいです」


  睨む誠治を軽くあしらい、玉置は笑みを浮かべる。


  「だろ?だからこそだよ・・・俺も、四国で別れた元気の仲間達とはあれ以来会えてないし、最後くらいちゃんと別れたかったよ・・・。話したい事もあるから、今度探してみようかな・・・元気も久しぶりに会いたいだろうしね!」


  誠治が笑顔で答えると、玉置も笑顔になって小さく頷いた。


  「貴宏君は、もしここの友達と離れるとしたら辛くないかな?」


  近くで話を聞いていた僕を見て誠治が聞いてくる。


  「それはちょっと辛いですけど、また会えるって信じてますから・・・だって、櫻木さん達自衛隊の人達や誠治さんが頑張ってくれてますから、きっと元どおりの平和な国になると思います!そしたら、また会えます!」


  答えを聞いた玉置は僕を抱き締め、誠治は頭を撫でてくれた。

  僕は2人の反応に驚き、少し焦ってしまった。


  「聞いた玉置さん?何なのこの健気さ!俺俄然ヤル気が出てきたんだけど!?」


  「私もです!貴宏君安心して!絶対に私達がまたお友達に会わせてあげるからね!?」


  2人のテンションが上がる。

  僕は肩を掴まれて揺さぶられ、首が痛くなってしまった。


  「ただいま、皆んな大丈夫だったぞ!・・・何だ?何かあったのか?」

  

  皆んなの所に行っていた父が戻り、僕達を見て驚いている。

  父が帰ってきた時、僕は2人に胴上げをされていたのだ。

  父が驚くのも無理はないと思う・・・。


  「いやぁ、貴宏君は良い子ですね!どうやったらこんな健気な良い子に育つんですか!?最近の千枝にも見せてやりたい!!」


  「杉田さん、貴宏君はとても優しい子です!これも杉田さんの教えがあっての事でしょう!素晴らしいです!!」


  「え?いや・・・あの・・・何が何だか解らないのだが・・・取り敢えずありがとう?」


  2人に詰め寄られた父は気圧されている。

  こんな父を見るのは初めてだ・・・。


  「2人共、取り敢えず落ち着いてくれないか・・・?皆んなも承諾してくれたから、食材を持って公園に行きたいんだが・・・一応バーベキューという事になった。肉は飼っている鶏を絞めて用意するから、他の食材を持って行こう」


  「おっと、これは失礼しました!急いで行きましょう!」


  「了解しました!すぐに準備します!」


  テンション冷めやらぬ2人は、父に敬礼をすると、テキパキと準備を始めた。


  「一体何なんだあの2人は・・・?」


  「さぁ・・・?」


  楽しそうに準備をしている2人に呆気にとられながら、僕と父は準備を手伝った。







  「遅いですよ杉田さん!」


  僕達が準備を終えて公園に行くと、すでに大勢の人達が集まっていた。

  急いで準備をしたつもりだったのだが、父が帰ってきてからだったので、少し出遅れたようだ。


  「すまない、少々準備に手間取ってな・・・皆んなはもう集まったか?」


  父は咲の父親を見つけ、話し掛ける。

  誠治と玉置、永野は他の住民達に囲まれ、挨拶をしている。


  「あと少しですね。まぁ、そのうち来ると思いますよ?それにしても、こうやって皆んなで一緒に食べるのは、なんだかんだで初めてですよね?」


  「あぁ、井沢が提案してくれてな・・・。ここで皆んなで暮らすのも今日で最後だし、最後くらい楽しもうと思ったんだ。皆んな今迄共に協力し合って生きてきた・・・四国に着いたら離れ離れになるかもしれない。なら、せめて最後に楽しい思い出を共有したかったんだ」


  「そうですね・・・うちの家族は、よく杉田さんや貴宏君と夕飯を一緒にしましたけど、他の人達とは殆どそういった事は無かったので正直嬉しいですよ・・・。櫻木さん達はもちろんですけど、井沢さんには本当に感謝してますよ・・・」


  「そうだな・・・ここに来てくれたのが井沢で本当に良かった。あいつに久しぶりに会って、しばらく会わない内に人っていうのは変わるもんだなとつくづく思ったよ・・・。昔のあいつはこんな事をするような奴じゃ無かった・・・どちらかと言うと人を避けていた。ガソリンスタンドでバイトをしたり、俺とは仲良くしていたが、理由が無ければ積極的に人と関わろうとしない奴だったんだ。俺はあいつのそんな距離感が心地良くてな・・・あいつとはよく連んでたよ。そんなあいつは、自分の目的も有るが、今では人の為に戦っている・・・俺は今のあいつが羨ましいよ。もし無事に九州に行けたら、俺もあいつを見習って変わる努力をしたいとさえ思った」


  父は、離れた場所で住民に絡まれて笑っている誠治を眺め、優しい笑顔で語った。

  僕と咲の父親は、ただ黙って父の話を聞いた。


  「先輩、見てくださいよ!彼、こんな良い物を持って来てましたよ!!」


  父の視線に気付いた誠治は、話をしていた男性と肩を組みながら近づいて来た。

  左手にはウイスキーの瓶が握られている。


  「井沢さん、私達はダメですよ?明日は馬車馬のように働いて貰わないといけないんですから、お酒は帰るまでお預けです!」

  

  それに気付いた玉置は、すかさず誠治の手から酒瓶を奪った。

  誠治はその場に崩れ、膝を抱えていじけた。

  それを見た皆んなは楽しそうに笑い、この集落の皆んなで揃って食べる、最初で最後の食事が始まった。






  「井沢、玉置さんが一杯だけってさ」


  僕と誠治が咲の相手をしていると、父がウイスキーの入ったグラスを両手に持ってやって来た。


  「おっ、玉置さんありがとう!」


  誠治はグラスを受け取り、玉置に手を挙げてお礼を言うと、玉置はため息をついて苦笑していた。


  「咲ちゃん、井沢を少し借りるよ?」


  父が咲の頭を撫でると、咲は少し不満そうにしたが、諦めて誠治から離れた。

  誠治は咲を可愛がっていたため、かなり懐かれている。

  咲は誠治に肩車をして貰うのが嬉しいらしく、彼を見つけてからはずっと肩に乗っていた。


  「咲ちゃん、また後で遊ぼうね!」


  「うん、またあとでね!」


  誠治が咲に約束すると、彼女は手を振って両親の元に帰って行く。

  誠治は彼女が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


  「お楽しみの時間を邪魔してすまなかったな・・・」


  「いえいえ、また後で遊ぶ約束をしましたし大丈夫ですよ・・・それより、どうかしましたか?」


  「いや、お前には世話になっだからな・・・ただ礼を言おうと思ってな」


  父は誠治の隣に腰掛ける。

  

  「何言ってるんですか先輩・・・まだ終わってませんよ?それに、俺は少し心配な事があるんです・・・」


  誠治はウイスキーを口に含んでゆっくりと飲み、少しだけ陰のある表情をした。


  「心配な事・・・?」


  「えぇ・・・心配なのは、ダンプの事ですよ。あの場所から消えていたのが妙に気になってしまって・・・」


  「逃げただけじゃないのか?」


  「いえ、逃げるだけなら自分達の乗って来た車で良いはずです・・・わざわざ目立つダンプで逃げる必要はないんですよ。あの時はまだ自衛隊は本格的に動いていなかった・・・街の中にはまだ多くの新個体もいたはずなのに、敢えてダンプで逃げたのには何か理由があるはずだ・・・そう思えてならないんです」


  誠治は俯き、不安そうに呟く。


  「考えすぎではないのか?ダンプ1台ではどうする事も出来ないと思うが・・・」


  「だと良いんですけどね・・・まぁ、明日はコブラも護衛に付きますし、大丈夫だと思いたいですね・・・」


  誠治は残っていたウイスキーを飲み干し、深く息をつく。

  彼は自分でも言っていたが、かなりの心配性だ。

  だが、彼のその性格こそが今迄多くの人を救って来たのは確かだ。

  僕は不安を覚えながらも、明日何事も無くこの地を離れられるように神に祈った。

  

  

  

  



  

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