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The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
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第28話 戦う理由

  俺はリビングの床の上で目を覚ました。

  左頬がヒリヒリとしている。

  昨夜玉置をからかったため、強烈なビンタをくらったのだ。

  痛む頬を撫でつつ使い古した腕時計で時間を確認すると、朝の5時半だ。

  ラジオ体操の歌の様な希望の朝とは程遠い状況が続いているが、今の所は問題無いいつも通りの朝だ。

  今日は朝一で、櫻木と一緒に亡くなった隊員達の遺体の回収に行く予定だ。

  リビングには俺だけしかおらず、皆はまだ寝ているのだろう。


  「顔を洗って永野さんの様子でも見に行ってみるかな・・・」


  俺は硬いフローリングから起き上がり、洗面所で顔を洗う。


  「うわぁ・・・寝癖がヤベェ・・・」


  タオルで顔を拭き鏡を見ると、そこには短めの髪が逆立った自分の姿が写っていた。

  俺は一度髪を濡らして整えようとしたが、頑固な髪質のため、また逆立ってしまう。


  「まぁ良いや・・・メット被っとけばその内直るだろ・・・」


  髪を整えることを諦めた俺は、リビングに戻ってレザージャケットとチャップスを身に纏う。

  その組み合わせは、1年程前のあの日からずっと同じだ。

  夏は暑いが、冬は暖かい上に防御力も高い。

  前はウインタースポーツ用のボディーアーマーを中に着込んでいたが、今は内側にアルミ製の鎖帷子を縫い付けているので、かなりの重量になっている。

  着替え終わり、ヘルメットを被って玄関に向かうと、1階の寝室の扉が開き、貴之が出てきた。


  「うおっ!なんだ井沢か・・・家の中でヘルメットを被るなよ・・・ただでさえデカいのに驚くだろう・・・そんな格好して何処か出掛けるのか?」


  「おはようございます。いやぁ、寝癖が酷くてですね・・・メット被っとけば直るだろうと思いまして・・・。ちょっと永野さんの所に行ってきますよ。異常がなかったか確認したいので」


  俺が説明すると、貴之は若干呆れていた。


  「よろしく頼む。今日は朝一で櫻木さんと出るんだろ?早く帰って来いよ」


  「了解です!んじゃ、行ってきます!」


  俺はエンジニアブーツを履いて貴之に返事をし、玄関を出る。

  ヘルメットとブーツを合わせれば俺の身長は2m位になるため、かなり屈まないといけないので不便だ。

  俺がエンジニアブーツを履くのには理由がある。

  つま先にスチールトゥが入ってるため、蹴る時に威力が上がるのだ。

  スチールトゥが入っているなら、編み上げタイプのワークブーツでも良いのだが、俺の右手では紐が結べない。

  だが、それだけが理由では無い。

  奴等に足を掴まれた時、編み上げタイプでは咄嗟に脱げないのだ。

  いくら全身を革とアルミ製の鎖帷子で守っているとはいえ、奴等は力が強い。

  掴まれてしまえば、一気に引きずられてしまう。

  靴はまた買い直せば良いが、生命に替えは効かない。

  まぁ、アメリカの老舗ブーツメーカーのオーダーメイドなので、正直棄てるには勿体無い値段だが・・・。


  「やっぱり朝は冷えるな・・・冷えた空気で眼が覚める・・・」


  俺は愚痴をこぼしつつ、永野が見張りをしている集落の入り口に歩き出した。







  「ん?タバコの匂いがするな・・・」


  俺が入り口の前に着くと、何処からともなくタバコの匂いが漂ってきた。

  周囲を見渡すと、入り口近くの家の塀の裏から煙が上がっている。

  俺が塀に近付き覗き込むと、永野と3人の住民がタバコを吸っていた。


  「永野二尉、サボりは良くないな・・・」


  「うわぁっ!?げほっ!げほっ!・・・すんません!!」


  俺が塀の上から小さく囁くように注意すると、永野は焦って咽せてしまい、涙目になりながら誤った。


  「なんだ井沢さんか・・・驚かせないでくださいよ!」


  「俺でもダメでしょう・・・まぁ、櫻木さんや玉置さんには黙っとくけど、勤務中はほどほどにね?」


  メットのバイザーを上げて注意すると、永野は申し訳なさそうにうなだれた。

  他の3人も同様に居心地が悪そうだ。


  「俺も昔は吸ってたから喫煙者の気持ちは解るけど、あの2人にバレたら怒られるよ?特に玉置さんは真面目だから・・・」


  「ですよね、すみませんでした・・・。一緒に見張りをしていた方々が、ここを脱出出来たら、久しぶりにタバコを吸いたいって言ってたので、なんなら今吸いますかって誘ってしまいました・・・」


  「まぁ、ここの人達と親睦を深めてたって事で良いんじゃない?玉置さんは女性だし真面目過ぎるから、見張りをする男性陣にとっては息がつまるだろうし、櫻木さんは身体デカくて威圧感あるからね・・・まぁ、デカイのは俺も一緒なんだけどさ・・・。永野さんはあの2人より親近感湧くから他の人達もやり易いと思うし、羽目を外し過ぎなければ良いんじゃない?ただ、戻る時はうがいした方が良いよ・・・絶対バレるから」


  「了解です!それより、こんな朝早くからそんな格好でどうしたんですか?まさか外に出るんですか?」


  永野は俺に敬礼して安堵の表情を浮かべ、俺の格好を見て聞いてきた。


  「いや、出るつもりは無いけどね。ただ、何かあった時の為に着込んで来たんだ。まぁ、ヘルメットは寝癖を直すためだけどね・・・昨夜は異常は無かった?」


  「不気味なくらい何も無かったですよ。まぁ、上であれだけ音楽鳴らしてたら奴等はあっちに行きますよ」

  

  永野は高台の運動公園の方を見る。

  早朝だというのに、集落まで聞こえる程の音量で軍歌が流れている。

  奴等を誘き寄せる為、昨日スピーカーを設置したのだ。


  「なら良かったよ。やっぱり心配でさ・・・こんな状況だと、心配にし過ぎは無いからね」


  「井沢さんはいつもそうですよね・・・一緒に行動する隊員達よりも警戒してますよね」


  「何度も嫌な経験をしたからね・・・俺は、夏帆も慶次も悠介も・・・皆んなあと少しってところで死なせてしまった・・・もう二度とあんな思いはしたく無いんだ。だから、俺は常に最善を尽くしたい。皆んなだってそうだろう?ここの人達だって、誰かしら大切な人を失ったはずだ・・・だからこそ、こうやって毎日交代で見張りをしてる」


  永野と3人の住民達は、真面目な表情で頷く。

  永野は仲間の隊員を、住民は家族を亡くしている。

  皆んな俺同様に辛い思いをしている。

  だからこそ皆んなで力を合わせて生き残る為に努力する。

  確かに俺は他の人に比べて心配性なのかもしれない・・・だが、しないで後悔するよりやって後悔した方がマシだ。


  「さてと、そろそろ皆んな起きてくる時間だし戻るよ。寝癖も直っただろうしね!」


  「了解です!自分も朝食前には戻ります!」


  俺は永野達に手を振り、貴之の家に戻る。

  他の住民も起き出したのか、道行く家々から明るい声が聞こえてくる。

  俺はこの人達を無事に救い出し、この明るい声がいつまでも続けられる様に頑張ろうと気持ちを新たにした。


  






  俺が戻ると、櫻木や玉置、貴宏も起きていた。

  貴之は朝食の準備をしている。


  「井沢さんおかえりなさい。永野はどうでした?サボってなかったですか?」


  「大丈夫でしたよ・・・他の人達と親睦を深めてました。まぁ、彼は見た目普通で自衛隊員には見えませんから、他の人達も絡み易いみたいですよ」


  「そうですか・・・まぁ、仲良くやってくれているなら良かったですよ」


  櫻木は含みのある言い方をした。

  恐らく櫻木にはバレているのだろう。


  「櫻木さん、良かったら8時頃には出ませんか?早めに済ませて、住民の方々の手伝いをしたいんですが」


  「そうですね・・・自分も見張りの時間までには戻らないといけませんから、朝食が済んだら手早く準備をして出ましょう」


  櫻木は、俺の提案に少しだけ思案したが、すぐに快く承諾してくれた。


  「では私は、9時に定時連絡をして、そのまま見張りにつきます。何かあったら無線で連絡します」


  「よろしく頼む。出来るだけ早く戻るつもりだが、外は何があるかわからない・・・もしもの時は、お前が指揮を執ってくれ」


  櫻木が真面目な顔で玉置に言うと、彼女は呆れた表情をした。


  「一尉と井沢さんが2人揃ってたら、奴等だって逃げますよ・・・特に井沢さんは、奴等にとっては天敵みたいな存在なんですから」


  そう言った玉置は可笑しそうに笑っている。

  これはたぶん、少しだけバカにしているんだろう。

  昨夜からかった事を根に持ってるのかもしれない。


  「奴等にそういう判断が出来れば助かるんだけどねぇ・・・誰彼構わず突っ込んでくるから面倒で仕方ないよ・・・」


  「ですよね・・・人間なら銃を突き付ければそれだけで効果ありますけど、奴等はダメですもんね・・・」


  俺と櫻木は項垂れた。

  俺も櫻木も奴等と戦う覚悟はとうの昔に出来ている。

  だからと言って、好きで戦っている訳ではない。

  こんな生活を続けていれば、いつか命を落とすかもしれない・・・美希達を悲しませてしまうかもしれない・・・。

  だが、俺にはやりたい事がある。

  奴等を全て倒し、安心して暮らせる日本を取り戻したい。

  俺が殺してしまった人達に対する償いもある。

だが、本当の理由はそこではない・・・もっと個人的で、他人から見れば馬鹿にされてしまうかもしれない・・・そんな自分のこだわりでしかないのだ。


  「井沢、準備が出来たから手伝ってくれ」


  俺が項垂れていると、貴之がキッチンから俺を呼んだ。


  「了解です!すみませんね、任せきりにしちゃって・・・」


  「なに、貴宏も手伝ってくれたから大丈夫だ」


  貴之は息子の頭を撫で、優しい表情をしている。

  貴宏は嬉しそうだが、少し照れているのか俯いている。


  「さて、じゃあ早速食べましょうかね!貴宏君が手伝ったなら、しっかり味わって食べないとな!」


  俺は用意された朝食を左手で持ち、食卓に運ぶ。

  テーブルは櫻木と玉置により片付けられ、あとは永野を待つのみだ。

  永野もあと少しで戻るだろう。

  朝食のあと、俺と櫻木は外に向かう。

  亡くなってしまった隊員達の遺体を回収しに行く・・・俺は何としても彼等を連れて帰りたい。

  それは、俺が戦いを続けている本当の理由にも関係あからだ。

  

  

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