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The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
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第25話 井沢 誠治の過去③

  「お前は関東を離れるまでに、何で他の者達を誘わなかったんだ?お前なら増えても問題無いと思うんだが・・・」


  父は誠治の言葉に疑問を抱いた。

  僕も父と同じ意見だ。

  井沢 誠治と言う男は強い・・・それは今まで見て来たから解る。

  そして、仲間を守る為なら何だってやるし、実際にやって来た。

  誠治ならば、多少人数が増えても問題無く動けるだろう。

  それに、人が増えれば個人の負担は減る。

  ならば、多い方が都合が良いのではないだろうか?

  誠治は父の質問を受け少しだけ思案し、ゆっくりと口を開く。


  「俺はそれ以上増やす気はありませんでした・・・理由は簡単です。人が増えれば音も増えます。奴等は獲物を探す時、視覚と聴覚に頼っています・・・人が増えればそれだけ音も増えますし、何より目立つんです。移動をする時にはそれだけ車も必要ですからね。人数が増えれば燃料や食料の確保にも時間を割く必要がありますし、短期間で移動するには車3台が限界だと判断しました。まぁ、それ以上に千枝の事が心配だったってのもありますが・・・」


  「どう言う事だ?」


  父は誠治に聞き返す。

  誠治の言う通り、人が増えれば音は出るし目立つ・・・だが、何故千枝が心配なのだろうか?


  「俺達は、その時点で2つのグループが一緒になった状態だったんですよ・・・俺や悠介達のグループと、渚さん達のグループですね。俺達は彼等と一緒に行動するとは決めたけど、まだ互いを完全には信じられていなかった・・・。渚さん達は戦える大人が4人に対して、こっちは俺だけだ・・・もしグループ間の対立が起きた場合、子供の千枝を守るのはかなり厳しい。人質に取られる可能性だってある・・・まぁ、幸い渚さん達は千枝を可愛がってくれてたから心配いらなかったけど、そんな人ばかりとは限らないでしょう?人が増えれば諍いだって同様に増えるんですよ・・・そんなものに千枝を巻き込みたく無かったんです」


  「確かに、俺達がこのコミュニティを形成した時にも色々とあったよ・・・。一度は殺生沙汰になった事もある。子供にそんなものは見せたくないよな・・・」


  父は苦笑している。

  僕達がここに来た時、実際に諍いで人が死んだ。

  切っ掛けは小さなものだった。

  だが、どんなに小さな理由でも、時に人は殺しあう・・・あんな光景は二度と見たくはない。

  誠治は父に頷くと、話しを続けた。

  

  「千枝は本当に頑張ってくれましたよ・・・どんなに不安でも我儘も言わず、俺達の事を常に気遣ってくれていた。俺達が1つになれたのは、子供の千枝が頑張っている姿を見せられていたからだと思います・・・。千枝が俺達と渚さん達の間を繋いでくれたんです・・・。話しを戻しますが、俺は渚さん達を助けた後、今後の予定を話し合い、互いの武器や物資の量を確認して翌日その町を出ました。まぁ、予定を話している時に渚さんの職業を聞いて肝が冷える思いをしましたが・・・」


  「何をしてた人だったんだ?」


  「元警察官だったんですよ・・・俺はそんな人の目の前で人を殺したんです。あの時の気不味い空気はヤバかったですよ・・・」


  誠治は渋い顔で項垂れている。

  僕達はそんな誠治を見て苦笑する事しか出来なかった。


  「まぁ、セクハラにキレた渚さんが、上司をぶん殴って辞めたらしいです・・・。そんな話しをしてたら、お互いを疑ってるのが馬鹿らしくなってしまって、その後は結構気楽に話しが出来るようになったので結果オーライではありますが・・・。そんな感じで色々と話しをした後、俺達は休憩を挟みつつ移動して次の町に着き、また消防団の詰所を拠点にしたんですが、そこで俺はある提案をしたんです・・・それは表に停めてあるLAVにもやってありますが、車の窓に遮光フィルムとカーテンを取り付ける事でした。そうする事で、奴等をやり過ごす事が出来るんじゃないかと思ったんです。俺はすぐに渚さんと隆二、あと立候補した美希を連れてカー用品店に行き、必要な物を手に入れました。ですが、帰りに問題が起きたんです・・・来た時にはいなかったのに、帰り道に奴等の集団がいたんです。俺達は二手に分かれ、奴等を分断して振り切る事にしたんですが、俺と美希が進む方には奴等が多くて、なかなか振り切れなかった・・・しばらく車を走らせていると、大型商業施設の目の前を通って絶句しましたよ。バリケードが破られ、奴等が殺到していたんです・・・。恐らく、避難していた人達は助からなかったでしょう・・・俺はその光景を見て不安になっている美希を励ましながら、詰所とは逆方向に車を走らせました。中心部を抜け、住宅地から迂回して戻るつもりだったんですが、途中で夜になってしまい、俺と美希は倉庫の警備員室で一夜を過ごしました・・・まぁ、その時美希に告白されて、彼女との事を真剣に考えるようになりましたよ・・・」


  誠治の顔があからさまに照れている。

  さっきもそうだっが、美希の話になると途端に惚気が入る。


  「・・・井沢さん?」


  「わかってるよ、ゴメン・・・」


  玉置に呼ばれ、誠治は慌てて謝る。


  「えっと・・・そこで一夜を過ごした次の日、俺達は急いで詰所に戻りました。昼までに戻らない場合は、可能なら捜索する事にしていたので、彼等が出る前には帰らないといけなかった・・・そうでないと、彼等が危険になってしまうからです。俺達が何とか昼前に帰り着くと、先に帰り着いていた渚さんや隆二も居て、俺達を心配して眠れなかったのか、皆んな目の下にクマが出来てやつれてましたよ・・・千枝には泣かれるわ悠介に美希との事を報告してからかわれるわ散々でしたよ・・・。でも、渚さん達に暖かく迎えて貰えて、改めて彼等の事を仲間だと意識しましたね・・・。俺達が帰り着いてすぐ、殆ど寝ていない彼等には悪いと思いましたが、早々に次の街に移動しました。大型商業施設を襲っていた奴等がこちらに来る可能性があったからです。昼前に出て夕方くらいに次の街に着き、シャワー付きの交番を見つけて拠点にし、その日は皆んなゆっくりと休みました。翌日、俺を筆頭に男4人で1日掛けて遮光フィルムを張り、実験もしました。その時慶次とかなり仲良くなれました・・・高校時代、渚さんと付き合っていた時の話しを聞いたりして楽しかったですよ・・・歳は離れていても、こいつとなら親友になれる。そんな気がしたんです・・・だけど、その翌日慶次は死にました・・・。前の街での二の舞にならないようにと、連絡手段を手に入れようと無線機を探しに警察署に行ったんです・・・可能であれば弾薬の補充もしようと話し合い、俺と慶次、それと隆二の3人で向かいました。署内には転化した警察官が数体いましたが、難なく無線機を手に入れた事に気を良くした隆二が、俺の反対を押し切って弾薬を探すため、二階に上がったんです・・・その時、改めて俺と慶次が止めたんですが、隆二はそのまま先に進み、それに気付いた奴等が窓を割って隆二に襲い掛かりました・・・俺と慶次は、何とか隆二を助け出しましたが、すでに奴等に囲まれていたんです・・・退路を断たれ、俺達は仕方なく反対側の階段に向かいましたが、そこにも奴等がいて、下にはいけなかった。俺は慶次と隆二に3階から反対側に向かって下に降りるように指示し、その場で奴等を食い止めました・・・正直、そこで死んだと思いましたよ・・・心の中で何度も美希に謝ってました。俺がしばらく奴等を食い止めていると、3階から隆二の叫び声が聞こえました。俺は何をグズグズしてるのかと思って慶次と隆二の元に駆けつけましたが、彼等の姿を確認して目眩がしましたよ・・・慶次が奴等に組み付かれ、肩や腕を噛まれていたんです・・・。俺はすぐに慶次に襲い掛かっている奴等を倒し、隆二から事情を聞きました・・・奴等に気付かれ、俺や慶次を巻き込んでしまった事に気を取られ、油断した隆二が奴等に襲われそうになったのを、慶次がかばったんです・・・慶次は兄として当然だと言っていました・・・。俺は気が動転している隆二を引っ張り、慶次に肩を貸しながらその場を離れようとしましたが、慶次は俺の肩から離れ、自分が囮になるから先に行けと言いました・・・自分はもう助からないからと・・・渚さんに転化した姿を見せたくないからと言って、笑いながら隆二や皆んなの事を俺に託しました・・・。慶次に縋る隆二を無理矢理引き離し、慶次に拳銃を渡して俺はその場を後にしました・・・階段を降りると銃声が響き、その時、俺にとって親友になれたかもしれない男を失いました・・・。俺は警察署を出ると、泣きじゃくる隆二を車に乗せ、皆んなの元に戻りました・・・正直、皆んなの元に帰るのが怖いと思ったのは、あの時が最初で最後です・・・」


  誠治が話しを区切ると、皆んなはただ沈黙している。

  仲間の死を報せなければいけないと言うのはつらい立場だ。

  しかも、その死が本来防げていたものだからこそ遣る瀬無く、辛い。

  誠治は目を伏せ、話しを続ける。


  「俺も車の中で泣きましたよ・・・あの時もっと反対していれば、慶次は死ななかったかもしれない・・・。自分の所為で兄を死なせてしまった隆二は俺よりもさらに辛いだろうと思うと、なかなか皆んなの元に帰る気が起きなかったですよ・・・。俺はしばらく隆二が落ち着くのを待って、皆んなの元に帰りました・・・慶次の死を報告した時の皆んなの反応を見ているだけで死にたくなりましたよ・・・渚さんは俺に掴み掛かるし、由紀子は泣き崩れるしでさ・・・。渚さんが俺を責めていると、隆二がそれを止めて自分の責任だって言ったんです・・・自分の方が辛いハズなのに、俺の事をかばってくれたんですよ。渚さんは隆二に止められて少し冷静になったので、俺は包み隠さず全てを話しました・・・。渚さんは話しを聞き終わると席を立ち、俺に掴みかかった事を謝って部屋を出て行きまし。俺はしばらく待って、部屋に戻ってきた渚さんに落ち着くまで滞在すると伝え、彼等を待ちました・・・立ち直って欲しいと心底思いましたよ。数日後、なんとか隆二も立ち直り、皆んなでその街を離れました・・・。そして、次に向かった街・・・そこが俺達が過ごした最後の街です」


  誠治の話は終わりに近付いている。

  正直、誠治の体験してきた事は僕や父よりも濃い物だ。

  話の内容からするに、まだ半月程しか経っていないであろう事は解る。

  だが、誠治はその半月の間ただ逃げ惑うのでは無く、仲間を守り、生き残る為に戦い続けて来た。

  誠治は父だけじゃなく、櫻木をはじめとした自衛隊からも信頼され、憧れであるとまで言われている。

  ただ生きていただけでその様になれるだろうか?

  誠治は九州に戻ってからも、それまでと変わらず戦い、守り、生き抜いてきた。

  そんな姿を見て来たからこそ、皆んなは彼を慕い、そして愛するのだろう。

  櫻木は誠治の事を凄い人だと言っていた。

  確かにその通りだと思う。

  誠治の体験は辛い思い出も沢山ある。

  だが、僕は彼の話の続きが気になって仕方がなかった。


  

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