表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The End of The World 〜one years later〜  作者: コロタン
21/41

第20話 玉置 奈緒

  私の名前は玉置 奈緒、28歳独身だ。

  女伊達らに、陸上自衛隊で二尉を務めている。

  私の実家は武道を教えているため、幼い頃から父に指導を受け、自衛隊に入ってからも同僚の男に負けた事は無かった。

  格闘戦ならば、最近一尉に昇任した同期の櫻木にだって負けた事は無い。

  私は防大と幹部候補生学校での成績も良く、問題などを起こした事は一度も無かったのだが、最短での一尉昇任を逃した。

  私は、櫻木に先を越されてしまった事が納得出来ていない。

  一年前起きた四国での出来事の後、私は今まで以上に誰よりも努力をしてきたと自負している。

  部下を率いて何度も奴等との戦いに赴き、仲間と共に多くの功績も立ててきた。

  だが、私は一尉にはなれなかった。

  櫻木だけが昇任した事が悔しくて堪らない。


  「何をやっているんだ櫻木一尉は・・・あんなのが私より階級が上になるなんて本当に納得いかない!」


  私は集会所の入り口で悪態をつく。

  今、私は仲間と共に、関東のとある街に来ている。

  その場所には奴等から逃れた人々が住宅地にバリケードを築き、共に生活をしている。

  私達は、先に来ていた井沢と共に、その人達を救助するまでの護衛として訪れた。


  「仕方ないですよ。さっき井沢さんの拳を後頭部に受けてましたからね・・・あれはすぐには動けませんよ・・・」


  私が苛立っていると、遅れている櫻木の事を、苦笑しながら同僚の隊員が擁護する。

  彼の名は永野(ながの) 敏和(としかず)、階級は私と同じ二尉だが、見た目は優男風で自衛隊員には見えない。

  だが、彼は櫻木と共に奴等と戦ってきた男だ。

  人は見かけによらないとは、彼のような者の事だろう。


  「永野さんは櫻木一尉に甘過ぎます!井沢さんに殴られたのは事実ですけど、あれは自業自得でしょう!住民の方々はすでに集まってるんですよ!?それなのに遅れるなんて自覚が足りない証拠です!!」


  私は永野に怒鳴った。

  彼は私の剣幕に冷や汗を流しながら狼狽えている。

  彼には申し訳ないが、完全に八つ当たりだ。


  「遅れてしまってすまない!集会所の場所がわからなくて、貴宏君に案内して貰った!」


  私が永野に怒鳴っていると、子供を連れた櫻木が急いで走ってくる。


  「櫻木一尉、その子は確か杉田さんのお宅にいた子ですよね?」


  「あぁ、杉田さんの御子息だそうだ!いやぁ、貴宏君のおかげで助かったよ!」


  永野の問い掛けに笑顔で答えた櫻木は、貴宏の頭を撫でる。

  貴宏は照れ臭そうにはにかんでいる。


  「櫻木一尉、言いたい事が山ほどありますが、住民の方々が既に集まっています。急いで中に入ってください・・・」


  私が睨み付けると、櫻木は冷や汗を流して頷き、集会所に入った。

  私と永野は櫻木の後に続き、貴宏も少し離れて付いて来る。

  貴宏の前で恥ずかしいところを見せてしまい、私は少し後悔した。


  「貴宏君、さっきはごめんね・・・櫻木一尉を案内してくれてありがとう!」


  「いえ・・・ここに来るまでに櫻木さんとお話し出来て楽しかったです!遅れたのは、僕と話してたからなねで、怒らないであげてください・・・」


  私が貴宏の隣に下がり謝ると、彼は上目遣いで櫻木を擁護した。

  貴宏は男の子としては線が細く、やや華奢な印象を受ける。

  もじもじとした仕草が可愛らしく、あまり子供に興味がない私でも保護欲をくすぐられた。


  「了解!じゃあ、貴宏君に免じて許してあげようかな!」


  私が笑顔で答えると、彼は満面の笑顔で頷いた。

  貴宏の嬉しそうな表情を見ていると、不思議と苛立ちが治った。

  怒っている自分が馬鹿らしくなってしまった。


  「おっ・・・櫻木さん、後頭部は大丈夫?さっきは殴ってごめんね・・・」


  集会所の上座まで行くと、私達に気付いた井沢が櫻木に謝る。


  「いやいや、俺の方こそすみませんでした・・・それより、待っててくれても良いじゃないですか!貴宏君が居なかったら、もっと遅れてましたよ!?」


  「あ・・・ごめん、櫻木さんはここは初めてなのに忘れてたよ!」


  井沢は櫻木に申し訳なさそうにしている。

  集まっている住民は、それを見て笑っている。

  先程までは緊張感のあった空気が、井沢と櫻木のやりとりで柔らかくなっている。

  

  「井沢さん、櫻木一尉・・・そろそろ始めてよろしいでしょうか?住民の皆さんも呆れてますよ・・・」


  『あ・・・ごめん・・・』


  私が促すと、井沢と櫻木はハモって謝った。

  以前、四国でもこんな事があった気がする。

  私は少し思い出し笑いをしてしまった。


  「遅れてしまい申し訳ありません・・・皆さん、お忙しい中集まっていただき誠にありがとうございます。私は陸上自衛隊西部方面第四警備地区福岡駐屯地に所属している櫻木 大輝一等陸尉と申します。今回、皆さんの救助を行うまでの数日の間、私の後ろに居ります玉置 奈緒、永野 敏和と共に皆さんの護衛をさせていただきます・・・」


  櫻木は集まった住民に挨拶をし、目を閉じて深呼吸をし、ゆっくりと言葉を続ける。


  「我々自衛隊は1年前のあの日、皆さんを見捨てました・・・その為にご家族や親しい人を亡くされた方もいらっしゃるでしょう・・・。私を始め、多くの隊員があの日の事を昨日の様に思い出します・・・助けを求める人々を見捨て、実家に残した家族を見捨て、安全地帯の確保を名目に逃げ出した・・・この1年間、その事を後悔しない日はありませんでした・・・。我々は、もう二度と同じ過ちは繰り返さないとお約束します!どうか我々自衛隊にもう一度チャンスを与えていただけませんでしょうか!?」


  震える声で語り終えた櫻木は、深々と頭を下げた。

  私も櫻木に倣い、慌てて頭を下げた。

  普段の櫻木を見ている私としては、正直あまりにも予想外だった。

  彼は仕事に関しては真面目ではあるが、あまり深く物事を考えない節がある。

  今までも少数の部下を率いて任務を遂行してはいたが、一尉に昇任してからは部下が増え、あたふたとして頼りない印象を受けた。

  その為か、彼に対する部下からの評価はあまり高くない。

  だが、今の櫻木はそんな印象とは違い、緊張はしているものの、私達を代表して挨拶し、そして謝罪している。

  謝罪する事に関しては私も同じ考えだ。

  私もあの日の事は今でも夢に見る。

  守るべき人達を見捨てた自分の力の無さと、不甲斐なさに憤りを覚えない日は無かった。

  だが、私は皆んなの前に立って櫻木の様に謝罪が出来るだろうか?

  私はふとそう思ってしまった。

  私が頭を下げたまま思案していると、1人の老女が立ち上がるのが目に入った。

  

  「櫻木さん・・・後ろのお二人も頭を上げてください・・・。私達としては、こうして自衛隊が助けに来てくれただけでもありがたい事なんですよ・・・。確かに最初は恨みもしました・・・実際井沢さんの話を聞くまで自衛隊を信用するなんてあり得ないと思っていました。でも杉田さんや井沢さんに諭されて、いつまでも恨んでいては何も変わらないって気付かされたんです。だから、私達はもう何も言いません・・・恨み言も、あなた方を貶める様な事も言いません。ただ、私達の様に生き残っている人達を、1日でも早く救ってあげてください・・・」


  私はその老女の言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じた。

  正直、九州では罵詈雑言を受ける事は日常茶飯事だ。

  それは当然の事だと思うし、私達には言い返す資格もない。

  だからこそ、その老女の言葉を聞いて涙がでてしまった。

  私達の事を信じ、優しい言葉を掛けてくれた事が嬉しくて堪らなかった。


  「皆さんの暖かい心遣い、身に余る思いです・・・我々は必ずや皆さんを救助し、1日でも早く元の生活に戻れるよう誠心誠意努力いたします!」


  私達はもう一度頭を下げ、集まってくれた住民にお礼を言った。

  彼等は皆優しい言葉を掛けてきてくれた。

  私は涙が止まらなくなってしまい、救助しに来たにも関わらず、逆に励まされてしまった。


  「皆さん、ありがとうございます・・・では、今後についてご説明させていただきます。まず救助活動を行う日取りですが、今の段階では確定しておりません・・・。皆さんもお気付きかと思いますが、先程丘の上にある運動公園にスピーカーを設置し、音で奴等を誘き寄せております。ただ、新個体は動きが早いのですが、通常の個体は動きが遅く、運動公園にたどり着くまで時間が掛かります・・・出来れば多くの奴等を1ヶ所に集めておきたいのです。そうでなければ、皆さんの救助活動に支障が出る可能性があります。ですので、申し訳ありませんが連絡があるまでしばらくお待ちいただけますでしょうか?」


  櫻木が説明を始めると、皆は席に戻り耳を傾ける。


  「その間、私達はどうすれば良いでしょうか?」


  1人の女性が挙手して質問した。


  「いつ救助活動を開始しても大丈夫なように、必要な物を準備しておいていただけると助かります。ただ、我々が救助で使うヘリは大型ではありますが、皆さんを乗せるとなるとあまり多くは運べません・・・ですので、家財道具は置いて行く事になります。家財道具などは九州や四国、北海道に着いた時にこちらでご用意いたしますので、ご協力をお願します。救助はこの集落の広場で行います。まず最初の1機で隊員を降ろして救助活動時の護衛をし、皆さんはその機で洋上の護衛艦に避難していただきます。我々は空で待機している2機目に乗り、ここを離れる予定です。他に何か質問はありますでしょうか?」


  「救助までの間の守りはどうするんだ?奴等を誘き寄せるなら安心なのか?」


  「見張り等は今まで通りしっかりと行った方が良いでしょう・・・何があるかわかりませんから、今まで以上に警戒した方が良いと思います。この状況では、警戒にし過ぎはありません。我々も井沢さんと共に2交代で警備を行う予定ですので、皆さんにはその補助をお願いします。あと、この後バリケードの強化・点検と、通りの入り口に罠を設置する予定です」


  櫻木は住民からの質問に淀みなく答える。

  前はここまで出来るような男では無かったはずだ。

  一尉に昇任した事で、彼の中で何かが変わったのだろうか?


  「他に質問が無ければ解散となりますがどうでしょうか?」


  「ありがとうございます・・・今の所は他には無いようです。また何かありましたら、質問させていただきます」


  皆に問い掛けた櫻木に、杉田が代表して答えた。


  「では、皆さんお忙しい中我々の為にお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。救助までの数日間ではありますが、何卒よろしくお願い致します」


  私達は最後にもう一度頭を下げ、住民を見送った。


  「櫻木さん、お疲れ様!なんかカッコよかったじゃないか!」


  皆が集会所から出るのを待って、井沢が話し掛けてきた。


  「あー緊張した・・・もうこんなのはやりたくないですよ・・・」


  櫻木は床にへたり込み項垂れている。


  「でも良かったよ・・・正直心配だったけど、皆んながちゃんと理解してくれて助かったよ!」


  「そうですね・・・皆さんの為にも頑張りますよ!じゃあ井沢さん、通りに罠を仕掛けに行きますんで頼めますか?」


  「了解しました櫻木一尉!」


  井沢はからかうようにニヤケて敬礼した。

  

  「組み分けはどうします?二手に別れた方が良いと思いますが・・・」


  「玉置さん、俺と組まない?」


  私が提案すると、すぐさま井沢が誘ってきた。

  何か裏がありそうで不安だ。


  「新手のナンパならお断りですよ?」


  「あらら残念・・・俺は美希一筋だから別に良いけどね!」


  私が断ると、井沢は肩を竦めた。


  「冗談ですよ・・・井沢さんが一緒なら心強いです。よろしくお願いします」


  「了解、期待を裏切らないように気をつけるよ!先輩、住民の人達から4人程手を貸して貰えませんかね?罠の設置はそんなに難しくないので、お願いしたいんですけど・・・」


  井沢が杉田に話し掛け、協力を願い出た。


  「別に構わないと思うが、必要なのか?」


  杉田の疑問も解らないでもない。

  実際、罠の設置は私達だけでも十分なのだ。


  「念には念を入れないといけませんからね・・・俺達だけで設置してる時に新個体が現れたら、後手に回ってしまいます。住民の方に設置して貰っている間に俺達が周りを警戒すれば、もし奴等を見つけても逃げる時間が稼げますからね・・・勿論皆さんは俺達が命に代えても守ります!どうですか?」


  「わかった。お前が言うなら人を集めよう・・・お前とは俺が行くから、あと3人探してくる」


  杉田はその場を離れ、人を集めに行った。

  私は、本当に裏がありそうで不安になりながら杉田の帰りを待つ。

  井沢を見ると、鼻歌を歌いながらふらふらとしていた。


  


  


  

  

  


  

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ