第11話 トラップ
「お前、罠なんか張ってどうするつもりだ?」
貴之が視線だけを俺に向けて聞いてきた。
「あいつらが話し合いの出来る相手なら何もしません・・・ただ、俺達やあの集落の人達の害になるから、その時は死んでもらう事になるでしょうね・・・気は進みませんが、黙って殺される訳にはいきませんからね・・・」
「わかった・・・俺も覚悟を決めよう・・・」
貴之は緊張の面持ちで頷いた。
「来ましたね・・・」
ゆっくりと階段を上がってくる音が聞こえる。
貴之は唾を飲み込み、入り口を見ている。
「そこに居るのはわかってるんだ・・・遠慮せずに入ったらどうだ?」
俺が扉に向かい声を掛けると、ゆっくりと扉が開き、5人の男達が銃を構えて入って来た。
「何故気付いた?」
最後に入って来た男が俺に聞いてきた。
「彼等の物資や装備が無いのに、LAVはそのままだ・・・疑ってくれと言ってるようなものだろ?」
「勘のいい奴だ・・・」
男は鼻で笑い俺を睨んだ。
「俺は彼等の仲間だ・・・お前達が持っている装備は彼等の物だが、その武器や食糧を返してくれとは言わない・・・ただ、お前達が持って行った無線機だけでも返してくれないか?」
俺は出来るだけ男達を刺激しないように慎重に問い掛けた。
だが、男達は俺を見ながらニヤけている。
大人しく交渉に応じてくれるつもりは無いらしい。
「嫌だと言ったらどうする?この人数・・・銃を持った人間5人を相手にするか?」
「そうだな・・・そうするしか無いならそうするよ・・・。で、何をやったら無線機を返してくれる?」
俺が肩を竦めて答えると、男達は殺気立ち、俺を睨んで銃口を向ける。
「無線機は渡さない・・・俺達が望むのは、食糧と武器・・・それと女だ。俺は、お前達が何処から来たのか知っている。今、俺の仲間達がお前達の住んでる場所に向かっている。俺が望む答えは一つだけ・・・YESだけだ。さもなくば食糧、武器、女だけじゃなく・・・お前達の命もいただく事になる・・・」
「貴様!!?」
男の発言に激昂した貴之が詰め寄ろうとしたが、俺は彼を止めた。
彼がワイヤーの中に入っては危険だからだ。
「そうか、残念だよ・・・出来れば、これ以上人を殺したくはなかったんだけどな・・・」
俺は左手に隠し持っていた、小型の巻き取り機のモーターを作動させた。
その機械は小型ではあるが、ワイヤーをしっかりと張れる様にかなり力が強い。
普通のワイヤーでも、指くらいなら簡単に切り飛ばす。
だが、今部屋に張っているワイヤーは斬れ味の鋭い物だ。
「おい、お前!何をした!?」
部屋の中にモーターの回転音が鳴り響き、男達は何事かと周囲を見渡し、俺に対して一斉に銃口を向ける。
「さぁね・・・知った時にはもう遅いんじゃないか?」
俺が言い終わるやいなや、奥に立っていた男の首が音を立てて床に落ちる。
その音に気付き、背後の光景を見た男達の表情が戦慄に染まったが、叫び声を上げる間も無く次々と首が落ちていく。
「ひぃぃぃっ!お、お前・・・何しやがった!!?」
だが、4人目の首が落ちた所で、俺の近くにいた男だけは腰を抜かしてその場にへたり込み、ワイヤーから逃れる事が出来た。
「お前、運が悪いな・・・あのまま死んでれば楽だったのに・・・」
俺は涙目でへたり込む男の背後に忍び寄り、銃を持っている右腕を斬り落とした。
男は声にならない悲鳴を上げて落ちた右腕を抱き上げる。
貴之は目を背け、目の前の光景を見ない様にしている。
「これ以上痛い思いをしたくなければ、そのまま大人しく質問に答えてくれ・・・そしたら、楽にしてやるよ・・・」
俺は男の胸倉を掴み、声を低くして言った。
男は痛みと恐怖に言葉を出せず、勢い良く頷く。
「まず一つ目・・・今無線機は持っているか?それともお前達の車か拠点か?」
「外にある箱バンの中だ・・・!」
男は唾を吐き散らしながら答える。
「声がデカイよお前・・・あと汚い!さて、次の質問だ・・・。お前達の仲間が俺達の住んでる所に向かっているのは事実か?何人位で、向かっている奴等の他にも仲間が居るのか?」
「向かってるのは9人・・・他には拠点を守る為に3人残ってる・・・」
「そうか・・・ありがとうな!」
俺が礼を言うと、男は安堵した様にため息をついた。
「なぁ、もう許してくれ・・・俺達が悪かった!車の中にある武器や物資は返すから、見逃してくれ!」
男は涙目で命乞いをしている。
「お前、奪う為に今までに何人殺した?正直に言ってみろ・・・」
男は困惑しながらも、ゆっくりと口を開く。
「12人だ・・・!それが何だって言うんだ!?」
「俺も5人・・・今ので9人になった訳だが・・・。俺はな、お前達のように、奪おうとして来た奴等を殺してきた。家族を、仲間達を・・・俺の命を狙った奴等だ。俺は殺した事を後悔してはいない・・・殺さなければ、誰かが死んでいた。だが、人の道を外れた事は後ろめたく思ってるよ・・・。別に正当化したい訳じゃないが、こんな状況だ・・・人を殺さなきゃならない場合もあるだろう・・・」
俺は男を見つめながら、ゆっくりと話す。
「意味がわからねえよ・・・それが一体なんなんだ!?頼むから助けてくれよ!」
「だがな、どうしても許せないんだよ・・・。お前等みたいに奪って当然みたいな奴等がさ。お前は、俺がここでお前を助けたらどうする?」
「えっ・・・」
俺は訴えを無視して話を続け、男に問い掛けた。
男は言葉に詰まる。
「お前は今まで奪う為に12人も殺した・・・そうしなければ生きられなかったか?それは違うだろう?殺さなくても、分け合う選択肢もあったはずだ・・・。だが、お前は・・・お前達はそれをしなかった!俺達を殺そうとした!仲間を襲おうとしている!!今ここでお前を助けても、また同じ様に奪うんじゃないのか!?殺すんじゃないのか!!?」
「井沢・・・もうその位にしてやれ・・・」
男の胸倉を掴む俺の手を、貴之が止めた。
男は恐怖で震え、涙を流している。
「すみません先輩・・・。おいお前、腕を出せ・・・かなり痛むが、血は止まる。正直、死んだ方が楽かもしれないぞ?」
俺は男に布を噛ませ、切り口の近くを死体から拝借したベルトで止血し、切り口にライターオイルをかけて火を着けた。
「ん゛ん゛ん゛ん゛っっっ!?」
男はあまりの激痛に悶えるが、俺は無理矢理押さえつけて炙り続ける。
切り口から血が止まったのを確認し、俺は男を解放した。
「先輩、バックパックから消毒液とガーゼ、あと包帯を取ってください。取り敢えずこのままだと感染症になるかもしれませんから、応急処置だけはしとかないと・・・」
「お前は滅茶苦茶だな・・・殺してやった方が、そいつにとっては楽だったな・・・」
貴之は、呆れた様に呟きながら道具を手渡した。
「まぁ、いい薬になったと信じたいですね・・・。それより、こいつ等の車を調べたらすぐに戻りましょう!皆んなが心配です!!」
「あぁ、思わぬタイムロスだったからな・・・急いで戻ろう!」
俺達は男の応急処置を済ませ、マチェットを1本と、拳銃を1挺だけ残して詰所を出た。
流石に武器無しでは生き残れないだろうと思っての事だ。
俺達は箱バンから武器と物資、そしてお目当の無線機を回収し、LAVに乗り込んだ。
LAVなら多少奴等が群がっていても大丈夫だからだ。
LAVの重量は4tを超えている。
そんな物に突っ込まれたら、まず助からない。
ただ、死体に乗り上げてしまえば、血と脂でスリップしてしまうので、油断は禁物だ。
「先輩、飛ばして行きましょう!まぁ、この車の最高速度は100kmですから、そこまで出ませんけどね・・・」
「そんなに出せる道は無いから安心しろ!取り敢えず、急いで戻るぞ!!」
貴之はアクセルを踏み込み、貴宏や皆んなの元に急いだ。




