第9話 LAV
「先輩、今のところ3ヶ所行って全部外れでしたが、あと何軒あります?」
俺と貴之は、先程から消防団の詰所に自衛官達が居ないか探し回っているが、今のところ彼等が居た形跡を見つけられていない。
「次で最後だ・・・それより、お前は大丈夫か?さっきから戦い詰で疲れてるんじゃないか?」
貴之は、車の外から話しかけている俺を、心配そうに見てくる。
俺は消防団の詰所に近付くと、車を降りて周囲にいる奴等を全て倒しながら進んでいる。
詰所の確認をするのに邪魔になるからだ。
3ヶ所を回っている間に、素早い個体とも7体ほど戦ったが、油断しなければ3体までならなんとか戦えそうだった。
「まぁ、休みながらですから大丈夫ですよ!次で見つからなければ、今日は諦めて帰りましょう!貴宏君も心配してるでしょうからね!」
「わかった・・・なら、次に急ごう。ここからはそう遠く無いから、夕方までには帰れると思う」
俺は車に乗り込み、その場を離れた。
午前中に出て来たが、自衛官達の行方は未だにわかっていない。
早く彼等を見つけ、洋上の護衛艦に連絡をしなければいけないが、夜になってしまっては危険だ。
俺達は、急いで次の詰所に向かった。
「この先の角を右に曲がれば詰所がある・・・ここまで殆ど奴等を見なかったが、どういう事だ?」
詰所の近くに着くなり、貴之は不安げに呟いた。
先程の場所から10分程車を走らせたが、詰所に近付くにつれ、奴等の数が少なくなった。
経験上、こういう場合は面倒なことになっている事が多々ある。
「何処かにまとまっている可能性がありますね・・・詰所の周りに集まってなければ良いんですけどね・・・取り敢えず行って来ます。何か有ったら合図しますから、それまで待機しててください・・・」
俺は貴之に指示をして車から降り、通りを進んで曲がり角から詰所の方を覗き見た。
「くそっ!やっぱり悪い予感が当たりやがった!!」
俺は詰所の前を確認するなり悪態をついた。
そこには、大量の奴等がたむろしていたのだ。
だが、奴等の間にある物を発見した。
自衛官達が乗っていたLAVだ。
LAVは自衛隊の保有している軽装甲車両で、7.62mm弾程度なら防げる防御力はある。
製作しているのは、重機でお馴染みの小松製作所だ。
「先輩・・・自衛官達が乗っていた軽装甲車両・・・LAVがあるので、ここに彼等が居るみたいですが、問題があります・・・奴等がかなり集まっています」
俺は車に戻って貴之に報告をした。
彼はため息をついて項垂れる。
「どうする・・・流石に危険だし、帰るか?」
彼は俺の表情を伺いながら聞いて来た。
彼が心配する気持ちも解るが、もし自衛官達が死んでいた場合、LAVは放置されている事になる。
一度戻って奴等がここを離れるのを待っている間に、もし他の生存者に車を盗まれたら、連絡を取る術が無くなってしまう。
俺は少しだけ迷い、決断した。
「すみません・・・このまま奴等を倒します。丁度角を曲がった先の路肩に、中型の土砂ダンプが放置されています。その荷台の上からなら、奴等は登れないので安全に倒す事が出来ます。LAVを放置したままでは、他の生存者に狙われる可能性がありますから、何としてもそれは避けないといけません・・・」
「わかった・・・今回は俺も行こう。流石にお前だけではキツイだろうし、2人なら広範囲をカバー出来るからな」
彼は少し考えた後、覚悟を決めた様に言った。
その表情は異論は認めないと言っている様だ。
「わかりました・・・では、俺の後をついて来てください。奴等に気付かれない様に静かに荷台に乗りましょう・・・」
俺は諦めてため息をつき、彼と共にダンプに近づいた。
「凄い数だな・・・何体くらいいるんだ?」
「ざっと50体ってところでしょうかね・・・先輩、手を伸ばしてください・・・引き上げます」
彼の呟きに答えながら、俺は彼を引き上げた。
「まぁ、この上なら新個体も上がって来るのに時間が掛かりますし、安全に対処出来るでしょう!モグラ叩きと思えば良いんです!!」
「了解だ。まぁ、お前が居るから心配はしてないよ・・・」
俺が明るく言うと、彼は肩を竦めて苦笑した。
「先輩、これを使って下さい。俺の右手に装備しているマチェットの予備です・・・重量が結構ありますが、長さが通常の倍くらいあるので上からでも十分届くと思います。それじゃあ始めますかね?」
「お前・・・よくこんなの振り回して戦えるな・・・。まぁ、ありがたく使わせて貰うよ!」
マチェットを手渡し、素振りをして使い心地を確認するのを待ち、ダンプのボディを叩いた。
空のドラム缶を叩いたような引い金属音が鳴り響き、詰所の前にいた奴等が反応して一斉にこちらを振り返った。
新個体は素早く反応し、すでにこちらに向かって走り出している。
新個体の数は8体のようだ。
「嫌な光景だな!」
「大丈夫です、俺なんて毎回過ぎて飽きて来ましたよ!これに慣れたらダメ人間確定ですよ・・・」
「それは遠慮したいな!井沢、一体目が来るぞ!!」
俺達が軽愚痴を叩き合っていると、奴等の第1波が押し寄せた。




