プロローグ
The End of The World の続編になります。
今回は主人公を変えてあります。
前作の登場人物も出す予定なので、楽しんでいただけたら嬉しく思います。
『お母さん・・・僕だよ!?やめて!こないでよ!!』
僕は今夢を見ている。
それは1年前、僕を守るために奴等に噛まれ、転化した母に襲われる夢だ。
この1年、寝る度にその夢を見てしまう。
優しく家庭的で、いつも僕の心配をしてくれていた愛しい母の死は、まだ10歳の僕には受け入れ難く、何より辛いものだった。
『お母さん!やめて・・・!痛いよ!!』
その夢の中で、僕は転化した母に腕を噛まれる。
必ずそこで目が覚める。
ガバッ!
「うわぁっ!」
布団の中から飛び起きる。
「またあの夢だ・・・お母さん・・・」
僕は目元に浮かぶ涙を服で拭う。
着ている服は、悪夢による冷や汗で肌に張り付き、ベトベトになっていて気持ちが悪い。
「貴宏、どうした・・・?また母さんの夢を見たのか?」
僕が叫びながら起きると、襖を開けて父が顔を覗かせる。
「うん・・・。お父さん、心配掛けてごめんなさい・・・」
「お前が気にすることじゃない・・・。子供の心配をするのは、親として当然のことだからな」
謝る僕に、父は笑顔で言って頭を撫でてくれた。
母と同じで、父も僕のことを愛してくれている。
厳しいところもあるが、それは僕のことを心配しているからだと解る。
「お父さん、お外はどんな感じなの?まだ沢山奴等がいるの?」
「だいぶ散らばったようだよ・・・だが、まだ安心は出来ない。朝になったら他の人達と見回りをしてくるから、外に出るのはその後にしなさい・・・。まだ4時過ぎだから、もう一度寝ておきなさい」
父は渋い顔をして言った。
僕達が居るのは、住宅地の道路をバリケードで遮断し、安全を確保した場所だ。
奴等の進入を防ぐため、バリケードは幾重にも重なり、かなり強固なものになっている。
そこで生き延びた人達とコミュニティを形成し、庭や空き地などで野菜や家畜などを育て、足りない物は外に出て調達しながら生活している。
だが、昨夜物資補給に出ていた人達が奴等の集団に見つかり、この場所に群がった。
バリケードを破壊しようと奴等が集まり、大人達は夜通しバリケードの強化と、奴等の状況を伺がっていた。
「お父さんはもう良いの?」
僕は父に問い掛けた。
父も見張りに出ていたはずだったのだ。
「あぁ、父さんはさっきまで見回りをしてたからな。少し落ち着いたし、後は他の人に任せて帰ってきた・・・お前のことも気になったしな・・・。お前は私達・・・生き延びた人達にとっての希望になるかもしれない。何があってもお前は守ってみせる」
「お父さん、良かったら一緒に寝よう・・・?」
僕は疲れている父に遠慮がちに聞いた。
「わかった。じゃあ着替えて来るから待ってなさい」
「本当!?ありがとうお父さん!!」
僕が笑顔になると、父は優しく頷き、服を着替えに洗面所に向かった。
僕は待っている間に布団をかぶり直し、父の言った言葉を考えた。
父や周りの大人達は、僕を優先的に守ってくれる。
1年前のあの時・・・僕は、転化した母に襲われた時に噛まれた。
だが、それにも関わらず、僕は転化をしなかった。
父や他の人達は、僕には耐性だか免疫があるって話をしていたけど、僕自身はいたって依然と変わらない。
腕に噛まれた傷が残ってはいるが、それはリストバンドで隠して見えない様にしている。
はたから見ればただの小学生だ。
父も過保護にはなったものの、変わらず愛してくれている。
「お待たせ。じゃあ寝ようか?」
着替えを終えた父が部屋に戻ってきた。
父は僕の隣に寝転び、頭を撫でてくれた。
「お父さん、おやすみなさい・・・」
僕は、撫でられた頭がくすぐったくて笑みをこぼしながら父に言った。
「あぁ、おやすみなさい・・・」
父も僕を見て笑顔になり、ゆっくりと目を閉じた。




