いろいろです
「あははっ、それはねえ、本当にいろいろだからねえ」
笑っていったスラギ。
あれから後、ミコトの氷点下ボイスによって金と赤茶のじゃれ合いを終了させた一行はようやっと出発し、現在馬上の人である。
もちろんかの親切・朗らかレモンイエローな鬼の宿主には心の底から頭を下げておいた。
親指を立てて幸運を祈られた。
そんなに不幸を背負った顔をしていましたか。
ともかく。
そんなこんなで出発したはいいが、道中疑問がいまだ燻って消化不良であった騎士団長、標的をミコトからスラギへと変えて『死にかけ事件』への追求を再度試みていたのである。
そして返ってきた答えが冒頭であった。
だから笑い話ではないと思うんだけどそこのところどうなんだろう。
しかし、騎士団長は慌てない。
「そうか、色々か。できればその『いろいろ』の中身が俺は知りたい」
慣れたものであった。
慣れたくなどなかったが。
ともあれ。
「ん~、アマネと喧嘩でちょっとやりすぎちゃったりとか~、師匠が組手でちょっとやりすぎちゃったりとか~、」
ようやくスラギから具体的な答えが返って来たからいいのである。
でもあれだ。
喧嘩とか組手とか日常風景のはずなのになんで「やりすぎちゃった」で死にかけてるんだ。
ていうかアマネとの喧嘩の本気具合はいい加減理解したけど、グレン翁よ弟子を死の淵に追い込んでどうするのだ。
「そうか、やりすぎちゃったか……」
騎士団長は遠い眼でただ零した。
しかしスラギはさらににこにこと。
「あ、グレン爺さんが急に『氷山を見たい』って言い出して凍死しかけたりとか、『火口が見たい』って言い出して溶解しかけたりとか、『空を飛びたい』って言い出して肉塊になりかけたこともあったけど~」
グレン翁のフリーダム炸裂を語ってくれた。好奇心に満ち満ちている。
「グレン翁……」
騎士団長は乾いた笑いを浮かべた。
何やってるんだ年長者。一応仮にも『師匠』で『保護者』でなにより『爺さん』じゃないのかあなたは。
元気だな。
「あ、そう言えばそもそもスラギとミコトさんと、グレン翁との出会いも空を飛ぶの飛ばないのとか……」
最初から飽くなき好奇心とフリーダムの塊だった。
「あはっ、そうそう。でもほかにもいろいろあるんだよ~。ミコトが一か月家を空けた時は、料理できないのに三人で何とかしようとして面白いものが出来ちゃったし~。喧嘩してミコトに殴り飛ばされた時も危なかったし~、間違って薬草紛失させちゃったときとか亜空間に一週間閉じ込められたし~」
「……」
「そういやあ、黄龍が来たときミコトを巡って決闘になった時も死にかけたなあ。うっかり町を崩壊させたときは不眠不休で町が完全に元に戻るまで許してくれなかったもんだ、ミコトは」
はっはっは。
笑うスラギ、横から楽しそうに話に入ってきたアマネも同じく朗らかに笑う。
騎士団長は二人に視線を固定して動かない。
「……」
え、まって……。
……ミコトさん?
何処から突っ込めばいいんだろうかと騎士団長は一時停止していた。
正に、背後。
騎士団長の背後に、つい先ほどのスラギとアマネの話にほぼオール出演していたかの人物が静かに、時折薬草を採集しながらついてきている。
すごく振り向きたかった。
でも絶対振り向けなかった。
「……そうか、……いろいろだな」
騎士団長は、はかなく笑った。