波乱万丈です
なんか……あれだよ? ミコトのその言い方だと、死にかけたのは一回じゃないみたいな印象を受けるよ?
「……」
騎士団長は聞くべきか聞かないでおくべきか迷った。
迷ったけれど、まだまだ金と赤茶は楽しそうににこにこと火花を散らしてじゃれあっているので、結局は口を開くことを選んだ。
「ミコトさん、その……魔大陸の食い物で死にかけた以外にも、危なかったこととか、あるのか?」
すると。
「ああ、そりゃあな」
恰もそれが当たり前かのような答えが返された。
うん、ホントそれが日常生活の一部かの如くさらりと肯定したけどミコトさん。
普通に生活している一般人はよほどのことがなければ何度も死にかけたりはしないと思う。
ぶっちゃけ一回でも死にかけたことがあればその人生は波乱万丈である。
ていうか何があったというのだお前らに。
ので。
「……へえ、……。なんでだ?」
引き攣った騎士団長は、それでも冷静を保って質問を続けた。
が。
「なんでって。三十年近く生きてりゃ十回や二十回死にかけるだろ、誰でも」
「そんな馬鹿な」
ミコトが当然のように言いはなったそれに思わず突っ込んだ。
だって騎士団長は知らない、そんな恐ろしい一般論は知らない。
乃ちそれは一般論ではありません。
ていうか騎士団長が聞きたかった答えと微妙に違うし。騎士団長はいったい何があって死にかけたのかを当たり障りない程度に聞きたかっただけなのに。
ミコトの回答で吹き飛んだよ。
どういうこと? いや、本当にどういう事?
スラギとアマネとミコト。二十七歳が二人と二十六歳がひとり。若い盛りの三人である。
そう、若いのだ。
そんな若い身空で何がどうしてそうなった。
普通は一生のうち一回死にかけたら波乱万丈だっていってるのに君たちは何? 三十年にも満たない中で十回も二十回も死にかけてるの? そしてそれに疑問を一切持っていないの? 何したらそんな個性的な人生が送れるの?
「……いや、だからな? なんでそんな死にかけるようなことになったのかなって」
騎士団長はあくまで柔らかく聞いてみる。
ミコトとの問答とは「面倒くさい」と思われたら即終了なのだ。
ともかく。
「俺は薬品の実験が多かったな」
面倒と思わずに答えをいただけたけど、おい。
それ自分で飲むからだろ? 毒を自ら、あたかも水の如くなんのためらいもなく嚥下するからだろ?
一切の逡巡なくクラーケンの毒を飲んだり、バシリスクの毒で免疫低下させたりとなんでそんなに思い切りがいいんだと思えば昔からか。そして死にかけた過去があるのか。それでもやるのか。
探求心が旺盛でいらっしゃる!
「子供のころから、やってたのか……」
「自分で飲むのが一番確実だからな」
呆れて言った騎士団長の言葉に返って来た答えはチャレンジャー精神に満ちていた。
「死ぬかもとか、怖くなかったのかよ……」
茫然と呟いた。
が。
「今生きてるから問題ないだろう」
うん、そうだけどそうじゃない。
そんな結果論でよくミコトは今まで生きてこられたよ。
まあ殺しても死にそうにないのが自由人という生命体だけど。
いや、もういい。話を戻そう。
「じゃあ、スラギとアマネさんは?」
先ほどミコトは「俺は」と言った。ミコトは薬品で死にかけたにしても、スラギとアマネにはまた違った原因があるのだろう。
が。
「ああ、あいつらは、……」
ミコトはそこで言いよどんだ。意外に思って、騎士団長は瞬く。
と。
「……いろいろだ」
うん、その「間」の長さで心中察してしまったけれども、出来れば纏めないでいただきたい。