加工食品は申告をお願いいたします
魔大陸で人間が食事をしようとするならばへたった野菜炒めしか選択肢がないらしい。
魔大陸の宿の主人はお人好しらしい。
魔大陸の住人が、人間を蔑視していないのはなにかすごい菩薩的『人間』がかつて存在したかららしい。
魔王様は自由人の仲間らしい。
――これらが、昨日夕刻、常識人四人が仕入れた情報だった。
情報、だったのだが。
「「「「……へ?」」」」
そんな『初めての外食』を乗り越えた翌朝、つまりは現在。通常通りに美味しいミコトさんの朝ごはんに涙目でありつきながら、つらつらと昨日のことを話していたら、飛び出してきた言葉。
「……ごめん、もう一回言ってくれ」
「だから、今お前らが喰っているそれも、魔大陸産の野菜だといっている。こちらで調達できるものを人間大陸からわざわざ持ってくる必要なんぞないだろうが」
何度も言わせるな、と本当にどこまでも通常運転に戻ってしまったミコトが淡々と言い切った。
ちなみに昨日、夕食から騎士団長たちがおのおのの部屋に引き上げた直後くらいにミコトたちの部屋から轟音が響いてきたのでその頃に元に戻ったと思われる。
が。
そんなことはどうでもいい。
それよりもだ。
「「「「は、はああああああ!?」」」」
四人は仲良く絶叫した。
うるせえの一声とともに四本の包丁が眼前すれすれで机に突き刺さった。
バイオレンス!
じゃなくて。
「おま、ちょ、ま、ミコトさん!? そそそそれってどういう……」
今食べている、新鮮美味しい野菜のサラダが魔大陸産ってどういうこと? ねえどういうこと!?
包丁を見なかったことにして、金縛りから何とか舞い戻った騎士団長が詰め寄る。
が。
「ミコトが言ってる通りだよ~? 何言ってるの、今更~」
あはっと笑ったのはスラギで。
「大体、ミコトは薬草と一緒にこういう食用野菜も採取してただろうが。見てなかったのかよ?」
呆れたように息をついたのはアマネだった。
アマネさんマジでか。言われて確かめるようにミコトを見る四人、ぞんざいにうなずかれて更なる驚愕。
毎度おなじみ節穴で申し訳ございません。
いや、じゃなくて。
「え? どういうことだ? 魔力、含まれてるだろ? ……俺たち、無事だけど?」
混乱極まって視線を常識人な仲間に走らせる騎士団長、しかし「ぱーん」となる予兆などどこにもない。
すると。
「阿呆か。『魔力抜き』せずに食わせるようなことはしていない」
『あく抜き』のごとくさらっと言ったけどミコトさん。
「『魔力抜き』……?」
それは一体全体何でございましょう?
「そのままだ。加熱しなくとも食物から魔力を抜く方法はある。そうすればあとは人間大陸のものと何ら変わりない」
そしてどこからともなくミコトは調味料的な壜を取り出して。
「これを振りかけて五分も放置すれば十分だ」
当然のごとく、おっしゃったものだから騎士団長たちはそれを凝視する。
……何の変哲もない、壜だ。塩や砂糖のような真っ白で細かな粒子がいっぱいに詰められている。
「……ちなみにこれは市販で?」
聞いてみた。
「俺が作った」
当然の回答だった。
ですよね。
そんなもん売られてるならあの人の好い宿主が勧めてくれたに違いない。
ていうか昨夜の四人の努力は。本心を押し隠し名称詐欺の野菜炒めを腹に収めたその努力は何処へ。
いや、ともかく。
「……いつの間に……?」
ミコトがクラーケンの毒とかバシリスクの毒とかの研究をしていた話は見たし聞いたが、このような画期的代物を開発した話は聞いていなかった。
と。
「昔だ」
だから、濃厚な過去にいったい幾つ何かがあれば気が済むんだこの自由人は。




