思わぬ情報を仕入れました
え? ごめん、……救った? 魔大陸を? ……人間が?
「それはあの、いったいどういう?」
戸惑いながらも先を促す。すると宿主は興奮したように身を乗り出した。
「おお、聞いてくれるか!」
「え、ええ……」
「あれは何年前だったかな、まあ今の魔王様はもうその地位に立って数百年くらいするんだけどよ、まあ奔放っつうか自由っつうかおちゃめな魔王様だったわけだ」
まて、「奔放」と「自由」のラインナップをなんで「おちゃめ」でまとめた。
そしておちゃめな魔王って何? 何したの?
……というか、
「魔王様、が関係するんですか」
「おう! 関係大ありよ! 知ってるか? 知らねえよな! 魔王様って、今でこそ結構いい王様だけど、前まで本当に気まぐれだったんだぜ?」
「……へえ、」
「不意に行方をくらますらしくってなあ、月に一回とか二回とか、魔王様の捜索願が城から大陸中に出されるのが日常だったもんだよ」
「……へ~……」
「俺たちもそれ見て『またか』ってな! ていうか普通にその辺とか歩いてることもあるんだぜ? そんで高い木とかに登ってまったりしてんの見たことあるわ」
「………」
「そんで城に戻るの戻らないので王城の護衛兵やら大臣やらとドンパチして地形変えるんだよなあ、はははは」
「「「「…………」」」」
懐かしそうにしみじみと、宿主は語る。
騎士団長以下四人は虚ろな瞳で宿主を見ながら、脳裏でここにはいない旅の連れをまざまざと思い出していた。
……奔放、自由、……おちゃめ?
気まぐれ、不意の行方不明、ドンパチで地形を変える……。
え? なにそのクオリティ。知ってるんだけど。知りすぎてるんだけど。
むしろすごい身近で実体験してるんだけど。
嫌な予感はしていた。うすうすそうなのではないのだろうかと危惧していた。
……だが。
本当に、本当の、本当に。
……魔王よ、お前もか。
自由人の仲間はこんなところにもいたという衝撃的な事実を突きつけられた。
駄目だ、これから我らが自由人代表の三人を連れて魔王城へと歩みを進めるというのに、その結果自由人と自由人を迎合させてしまうのか。
世界の破滅が近づく足音が聞こえる。
しかも不可避!
――いや、まて。
「……『前まで』ということは、今の魔王様は違うんですか?」
宿主の最初の言葉を思い出し、希望を見出した騎士団長は尋ねた。
すると。
「おう! それなんだよ! 何年だったか前のことな、魔王様がまあまたなんかいろいろあってみたいで、どこかの誰かとすっげえ本気の戦いを王都でおっぱじめてさあ」
誰だその「どこかの誰か」。魔王とはりあう存在がいたとは、魔大陸恐るべし。
「けどだ!」
ばん、宿主は机をたたいて拍子をとる。
「けど?」
合いの手を入れれば調子もよく。
「そこに現れたのが例の『人間』よ! その菩薩のごとき慈悲で、魔王様の争いを穏便に止めただけでなく、既に被害が出ていた王都の住人全員のけがの手当てまでしてくれたっていうんだ!」
「魔王様の争いを……止めた?」
どんな手を使ったその「人間」。
「あのまま戦い続けてたら王都が消し炭になるどころじゃなかったっていうからなあ、ホント感謝だぜ。俺はそれを直接見たわけじゃねえけど、魔大陸中で有名だ、この話は」
うんうんと大きな動作で宿主は頷く。
「しかも、この事件のあとから魔王様はだいぶ仕事熱心になってさ、捜索願も減ったんだよ。それもこれもその『人間』のおかげだってんでな」
はっはっは。
笑う宿主の声は朗らかだった。
まあ、つまり。魔王は以前よりも「マシ」にはなったと。そういうことか。
その名も知らぬ人類を逸脱していそうな『人間』に、とりあえずは感謝すべきなのだろうと騎士団長たちは思った。
……ただ、ほんの一瞬、ちらっと、その『人間』に心当たりがある気もしたけれど。
けれど!
彼等はまかり間違って天地がひっくり返りこの世界が消滅しても「菩薩」ではありえないから、気のせいだと思うことにしたのであった。