精神を衛生的に保つことは人間にとって重要です
ともかく。
神から二物も三物も与えられておきながら良識をどこかに忘れてきた金と黒の美形コンビがもたらした光明。
『薬草採取』というメリット。
この際ミコトが本当に薬師かどうかなどどうでもいいのだ。ミコトがついてくるならば。
だってミコトがついてくることが、本来の目的であるはずのスラギが同行するための条件なのだから。
寄り道? 時間の無駄遣い?
何も問題などない、騎士団長の使命はどんな手を使ってでも魔王への道のりにスラギを引き摺りこむことなのだ。
「薬草採取くらい全然問題ない! むしろ協力だってしよう!」
ガッと騎士団長はミコトの肩を掴む。
その眼は血走って鬼気迫る迫力だった。
まあミコトさんはそんな暑苦しい押しなど心底嫌そうに軽く払いのけたけど。
ちなみにわずかに眉根を寄せたそれだけで、ありありと嫌悪を伝えてくるその技術は賞賛に値する。
ミコトの表情筋は仕事していないようで仕事しているのだった。
最小限の動きで最大の感情表現を。
エコである。
ともかく。
勝利の女神は騎士団長に微笑んだのだ。
「……まあ、それならたまには行くか」
言うなり、ふむ、と腕を組んで、あれとあれがそういえば少なくなっていた、と数え始めたミコト。
騎士団長はいろいろ問いただしたい案件がいっぱいある神に向って感謝した。
一方、そんなミコトを見てスラギはにへら、と笑う。
「え、ホントにミコトもくんの? やったあ、美味しいごはん~」
瞬間、騎士団長はばっとスラギを二度見した。
えっ、まさかの目的メシ。
おいしいご飯? おいしいご飯のためにミコトを巻き込んだの? あまつさえミコトが行かないなら行きたくないとか駄々をこねてたの?
ひどい脱力を抱えて呆然としている騎士団長。
しかし自由人どもは独自の世界で勝手に勝手なことを話している。
「俺、ミコトの作るシチュー大好き~。作ってね~?」
「……自分で材料調達してくるならな」
「やったあ、ミコト大好き」
「うぜえ、抱き着くな」
……。
どうしよう、目の錯覚だろうか、目の前の二人のやりとりが恋人にしか見えない件についてだれか救いの手を。
いや、見方を変えれば親子にも見えないこともないけども。
どちらにしろおかしい。
邪険にされても邪険にされてもべたぼれ溺愛にしか見えないスラギ。
心底面倒臭そうではあるが家から追い出さないあたりに慈愛を感じてしまうミコト。
……。
ふっと、騎士団長は笑った。
そして。
「でだな、ミコトさん、スラギ。来てくれるのは本当にありがたい。そこで日程なんだが……」
騎士団長は目の前に見えるすべてをなかったことにした。
何事もないかのようにこの後のことについて説明をする騎士団長。
それにミコトは同じく何事もなかったかのようにこちら側に帰ってきて、わかったといいながらいくつか確認事項を質問してくる。
冷静だった。
背中には子泣き爺の如くべったりと荷物をくっつけてたけど。
とりあえず、ないと思い込めばなかったことになるはずだと、騎士団長は自己暗示を強めるのだった。