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「みみみみみこ、みこ、ミコトさんんんん!?」
動揺の挙句騎士団長は壊れたラジオになった。
「ど、だ、な、えええ!?」
ミコトは背が高い。しかし騎士団長よりは低い。何より華奢だ。秘められし膂力は未知数だけど、とにかく細身だ。
つまり、支えたままだった騎士団長の腕の中にミコトはすっぽりと収まっている。
はんなりとほほ笑む、絶世の麗人が。
どうすればいいの? どうすればいいんですか助けて。
心の底から叫んだ騎士団長はこのままだと新しい世界の扉を開きそうだった。
と、そこに。
するり、と。
あまりにも自然に、あまりにも優しく、伸びてきた四本の腕が騎士団長とミコトを引き離した。
真っ赤になって固まる騎士団長、同じく真っ赤になって頬を押さえている王女とサロメ、限界まで目を見開いて硬直したままのイリュート。
いうまでもなく、ミコトをふわりと絡めとった四本の腕の持ち主は自由人たるスラギとアマネだった。
「……ミコト、熱、下がってきてるんだね?」
こつん、人目もはばからず、とろけるように甘い顔をしてミコトと額を合わせて熱を測ったスラギが言う。
ミコトは抵抗もせずに一度、瞬き。
「気をつけなきゃダメだろ? ほら、ふらついてる……。おいで?」
言ってミコトの頭をさらりとなで、そのまま腰を抱くアマネ。
「……ああ、」
ミコトはやっぱり瞬きひとつで、左右から支えてくるスラギとアマネに身を任せていた。
「部屋、行こう?」
極上の笑顔で、スラギが囁いた。
そしていつの間に鍵をもらってきたのか三人はそのまま、二階へ消えていこうとし―――――
「「「「ま、待ったああああああ!」」」」
怒声が宿をつんざいた。
宿の入り口で繰り広げられたやりとり、他の宿泊客も宿の主人もまとめて釘づけにしていた、こう、何とも言い難い空気を醸し出していた三人だったがさすがに足を止める。
「もう~、なあに?」
笑顔だけど、笑顔なんだけど、明らかに「邪魔すんじゃねーよ」と言ってきている視線が突き刺さった。
しかし怯むわけにはいかない。
がっし、騎士団長がスラギを、イリュートがアマネを、王女とサロメがミコトを。
がっつりつかんで、宿の隅っこまで引きずった。
で。
「何!? これは何!? ミコトさんに何があったんだ!?」
血走った目で、低く、騎士団長は叫ぶ。残りの面々もこくこくこくこくと高速でうなずいた。
しかし、それに反応したのは。
「……落ち着け」
常より明らかに柔らかい声で、表情で、するりと騎士団長の頬をなぜたミコトだった。
「―――っ!」
騎士団長の余裕は消えた。
真っ赤になってうつむき、プルプル震えている騎士団長、その間にそっとミコトの手をスラギが回収する。
「団長は大丈夫だよ、ミコト。ちょっとびっくりしてるだけ」
「今から説明すっから、ミコトは待っててくれ」
スラギとアマネがまた左右から、甘やかすように言う。それにミコトは小首をかしげ、しかしそれでもうなずいた。
おかしい。
ミコトにいったい何が起こった。いや、ホント。
しかし、アマネは説明するといった。だから今度は大人しく待つ。
そして告げられたのは。
「あのなあ、ミコトは風邪ひいて、熱が高い時は社交的(暴力的)になるんだけどよ、」
アマネの言葉。それはスラギに引き継がれ。
「熱が下がりきる直前くらいの短い時間、こういう甘えたタイムが始まるんだよねえ」
あはっと笑って言われた言葉に、常識人四人の頭は真っ白になった。
――ミコトさんが、……わからない。