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第二段階に入りました


 そこからのミコトは、えっと。

 ひどかった。

 ひどかったっていうか、怖かった。


 なんていうか、放物線を描いて飛んでいったガーゴイル、あれあまりの理不尽に飛んで戻って来たんだけど、そしてミコトに抗議したんだけど、それに対してミコトさんったら話をじっくり聞いた挙句に冷静に罵倒するんだもんよ。


 よくもそれだけ言葉のレパートリーがございますね。


 しかも足止めないからね、横をふよふよと飛んでついてくるガーゴイルを一瞥もしないで心抉っていく手腕ね。

 最終的にさめざめと泣きだしたガーゴイルは再びお空の星になって消えていきました。


 なんなの? 心の傷を深くするために戻ってきたのあのガーゴイルたち。

 そしてミコトの細い手足に秘められし膂力は何なの?


 ガーゴイルって岩でできてるんだけど。それが十体くらいいたんだけど。なのに一撃で華麗に吹き飛ばしたんだけど。

 本当に病に侵されていらっしゃるんですか? 熱が三十九度もあるんですか?


 ていうかそれ朝の時点での体温であって今現在上昇している可能性の方が高いよね? それでもそんな溌剌とぼうりょ……社交的でいらっしゃるって何なの?


 いや、まあガーゴイルにはひどかったけど騎士団長たちには多少暴言が多い気がしたくらいで普段から割と思わぬ言葉の刃でもって攻撃してくるし気にならなかったんだけど。


 お昼ご飯はさすがにこちらが何かしようとしたけど、食材も調理器具もミコトが持ってるし、何より芸術の如く流れるようにとっととミコトが用意してくれたものだから口をはさむ隙もなかった。


 お昼ご飯は……いつもと変わらず大変美味でした。

 病気の人間が作るって衛生的にどうなの? そして人道的にどうなの?

 そんな疑問は吹き飛びました。


 だっておいしいし。

 うつらないってわかってるし。

 ご飯おいしいし。

 昼で足を止めた時にミコトが風邪という衝撃の情報は常識人全員に周知されたんだけど誰も気にしなかったし。

 ミコト信者であるスラギとアマネからして止めても無駄だからというお言葉をもらったし。


 まあ結局、ご飯がおいしいからいいんだよって事だった。


 それにまあ、スラギが言う「ミコトの病はどんなものでもたいてい一日あれば治る」とかいう驚愕の自己治癒能力を証明するかのように、夕方が近づくにつれてミコトの社交性は鳴りを潜めて、いつもの素敵に端的な暴言を吐くミコトさんに戻ったし。


 黄龍からもらった風邪だよね。その黄龍、スラギから何とか聞き出したところによるとミコトに薬もらいに来たらしいんだよね。そしてついでに風邪うつしていったってことだけど。


 明らかに人間より頑健であろう魔族たる黄龍が負けた病原菌になぜ一応人間のミコトが一日で、しかも弱ったどころか真逆の現象を引き起こした挙句打ち勝っているのか。


 両性体だから? それも両性体だからで片付けるの?

 片付くものなの?

 ……そんな答えの出ないことをつらつらと、騎士団長はこめかみを押さえながら、考えていた本日後半だった。


 が。


 異変はまだ、終わらなかった。


 それは日もほとんど暮れて、本日の宿に着こうとした頃、である。

 宿に入ろうとした、まさにその時、わずかにふらり、ミコトがふらついたのである。それを咄嗟に支えたのが、真後ろに居た騎士団長だった。


 珍しいこともある、いややはり体調が悪いというのは本当であったのか。

 そんな風に驚いていた、時だ。


 ふわり。


 そんな形容詞がぴったりなほどに柔らかに、ミコトが笑った。

 騎士団長は固まった。


 しかしそれは序の口で。


「……すまないな、」


 現在は青年の姿であるというのに、美女顔負けの美麗さで、ミコトは言ったのだ。

 しかも、さらには。


「世話をかけるな、あんたも疲れているだろうに。――ありがとう」


 そして、騎士団長の頭をまるで壊れ物のように撫でた。

 なでた。


 美しすぎて血管が切れるかと思った。


 そして騎士団長どころかそれを目撃した全員が硬直していた。

 だがしかし、硬直しながらみんなの心は一つだった。




 ―――ミコトさんが壊れた!








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