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まって、朝ごはん? 朝ごはんにそんなもの入ってたの? 聞いてない、聞いてないよ?
ガタガタ震えながら問いただした。
しかし。
「やだな、おいしかったでしょ?」
おいしゅうございましたけれども。
「それにミコトの作る薬に間違いなんてあるわけないの知ってるでしょ?」
……そうでしょうけれども。
「なら、いいじゃない」
……いい、のか……?
…………。
いやいやいやいや。よくないよ?
いくら病気をしない為でも異物混入は異物混入だよ? 知らないうちに入れられてたなんて超怖いよ?
納得しかけたけど気を取り直して訴えてみた。
すると。
「つうか、ミコトちゃんと言ってたじゃねえか、聞いてなかったのか?」
横からアマネが口を出してきた。
その言葉に瞠目する。
「……へっ?」
言って、た? ミコトが、ちゃんとその薬のことについて?
どうにも騎士団長には記憶になかった。
……おいしいご飯か? おいしいご飯に夢中で聞き逃したのか? 自業自得という言葉が頭の中を巡った。
そこで、アマネに話が聞こえていたならその隣のイリュートにも聞こえていただろうと視線を投げる。お前は聞き覚えあるか、と。
が。
「……」
無言のうちに少年騎士は首をやや傾げ、それからゆっくりと横に振ったのである。
やっぱり覚えていないらしい。
「……本当に、言ってたか?」
訝し気に、スラギとアマネを交互に見る。それにあはっとスラギは笑い、
「噓なんか吐くほど退屈してねえ」
アマネは飄々とのたまった。
退屈だったら嘘を吐くんですか?
「……じゃあ、どんな風にミコトさんは、それのこと言ってたんだ?」
おいしいご飯に眼がくらんでいたという大いにあり得そうな己を知りつつ、それでも一応、聞いてみた。
すると。
「「『今日の朝飯は風邪の予防だ。しっかり残さず食え』」」
声をそろえて金と赤茶の自由人は答えた。
騎士団長は瞬く。
イリュートもぱちくりと瞬く。
そんな二人の脳裏には、常と変わらぬ秀麗な面でそんなことをいいながら大変美味なる朝餉を差し出した黒髪の麗人の姿が思い出された。
「「ああ……そういえば……」」
確かに、言っていた。
確かに、聞いていた。
が。
「それで察しろっつうのは無理があるだろ……」
騎士団長はがくりと肩を落とす。なぜならミコトの台詞に「薬」の「く」の字も出現していない。
のに。
「何言ってるの、いつもならミコト、そんなこと言わないじゃない」
スラギはやだなあ、もう~とばかりにひら、と手を振る。
いや確かに、今考えたらなんでわざわざ? と疑問に思うような事ですけれども。
「そこでお前らが『今日に限ってどうしたんだ』、とか聞いてたら、ミコトはちゃんと答えたと思うぞ?」
聞かなかったのはお前らだろ? と、呆れた視線をむけてくるアマネ。
いや、確かにミコトの言葉を聞き流してご飯に夢中になった学習しない人間ですけれども。
……。
「あれ? これ俺たちが悪いのか?」
虚ろな目で問えば。
「「やっと気づいたの(か)?」」
声をそろえて嘲笑された。
病に侵されているらしい黒髪の麗人よりもよほど病人然とした面もちになった騎士団長とイリュートだった。