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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
ユースウェル王国内編
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神様とは気まぐれなものなのです

「ああ、だがあのあたりにはこの辺りにはない薬草が生えていたか……」


 ふと、何でもないことのようにミコトがつぶやいたのである。


「あ、そういえばそんなこと言ってたっけ。じゃあいいじゃない、気分転換がてら薬草採取~」


 がばり、騎士団長は涙を散らして顔を上げた。

 見えた気がした。

 ほっそいほっそい光明が、差した気がした。


 願わくば気のせいとかそんなこと言わないでくださいお願いだから。


「み、ミコトさん? 薬草、採取ってのは……?」


 慎重に、慎重に騎士団長は尋ねる。

 その態度はとても下手であった。


 おかしい、世間一般的に見ればヒエラルキーは『騎士団長→スラギ(王国騎士団員)→ミコト(一般国民)』であるはずだ。

 けれどその崩壊は悲しいほどに明らかだった。

 むしろ真逆。

『ミコト(冷徹)→スラギ(自由人)→騎士団長(苦労人)』になっている。

 もちろんそんな現実から騎士団長は全力で目を逸らしているけれど。

 ともかく。


「あ、団長あのね、こう見えてミコトって薬師でもあるから」


 あはっと笑って答えたのはスラギであった。

 騎士団長は一瞬呆け、叫ぶ。


「……薬師!?」


『薬師』、それすなわち、俗にいう医者である。それも、医薬品の調合まで自ら手掛けることの出来る高度な知識と能力を持ったものだ。

 で、何で騎士団長が驚いたのかと言えば、そんな力を持っている者が何でこんなところで医療とは何の関係もない店を営んでいるのかという事である。


 ちなみに、たいへん今更ではあるがミコトが営むこの店はいわゆる雑貨屋だ。生活雑貨からちょっとした小物まで様々に販売されている、割と何の変哲もない小さな店である。

 店主は『何の変哲もない』とか口が裂けても言えないけど。


 だってだ。


 ここで、その店主・ミコトの話をしよう。

 まず見た目。黒髪に紺色の瞳。その髪は背の中ほどまで流れる直毛を無造作にまとめ、その瞳はきりりと涼やかだ。

 すらりとした体躯に白のシャツと黒のパンツは何処までもシンプルなのによく似合う。


 つまりは美形。


 スラギと並ぶと黒と金で系統は真逆、だからこそ輝く美形。

 しかも傍若無人なまでに堂々としており自由人代表かというようなスラギとも対等に渡り合う猛者。

 そしてそのうえ薬師というではないか。


 神よ、だからなんで自由人に二物も三物も与えておいて良識を与えないのだ。


 話を戻そう。


 美形で強靭な精神を持っていて薬師。

 さて、前二つはわかるが、なぜそんなに『薬師』が特別か。

 まあ、答えは簡単、『薬師』と名乗れるほどの高度な能力を持ったものなどめったにいないのだ。特に市井には。


 たいていの場合は『医術師』と『薬剤師』であり、医術師が診察して薬剤師が調薬する。それが普通だ。王城でさえも。


 そもそも医療を学ぶ者が圧倒的に少ないうえに、医術師になるにも薬剤師になるにも膨大過ぎる知識が必要となってくる。しかも医療のための学校というものは未だ制度が整っていない現状、学ぶには現役に弟子入りするしかない。

 だから医術師と薬剤師、両方の知識を併せ持った、しかもこんなに若くして自立しているものなど、レア中のレア。


 嘘言っちゃいけませんと普通だったら一刀両断してもいいくらいに珍しい。


 だがしかし、相手はミコトである。

 ミコトなのである。


 疑ったら「なんで嘘なんかつかなきゃならねえんだ馬鹿馬鹿しい」とむしろコッチが一刀両断されて背筋も凍る蔑みの目で見られることは必定である。


 騎士団長が可笑しいの? 騎士団長が非常識なの?

 そうこちらの常識を疑ってしまいたくなるほどに堂々としているのだ、この黒髪の麗人は。


 もちろん言うまでもなく非常識はあっちである。










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