非日常が日常です
でだ。
そんなこんなで今までと変わらぬ安全・快適な旅を魔大陸に来てまで続けていた一行。
……いやまあ、あれだ。変わったことが皆無なわけではない。
スラギとかアマネとか一網打尽狩りベントを嬉々として開催している二人は、
「魔大陸って魔力高い魔物が多いから楽しいよねえ」
「だなあ、やりがいがある」
とかなんとかおっしゃってたので変わったはずだ、彼等にとってはいい方向に。
へえ、としか言えないけど。
そうなんだ、としか相槌打てないけど。
だってあれだ。魔物が強くなったってことだよね、それって。まかり間違ってもそれは常識人にとって「よかったね」とか言えるような情報じゃないから。
気まぐれ起こさずに根気よく道行く魔物を根絶させてくださいとお願いするしかできません。
そしてもうひとつ。
魔大陸に入ってから、ちょくちょく馬を止める人が居る。
いうまでもなくミコトである。
いや、別に姿をくらますとかにこにこ笑いながら喧嘩を始めるとかそういうのではなく。
薬草である。
魔大陸にしかないという薬草を見つけては刈り取って亜空間にしまうという一連の動作。まあ流れるように美しいその動きは、他の人間が馬を止めるまでもない短時間で終了して直ぐに戻ってくるんだから支障も何もないけども。
というかそもそもミコトさんがついてきてスラギホイホイという重要な役目を担ってくれた理由は薬草採取に他ならないので文句など言えるわけもないんだけど。
でも、支障がなくても文句が言える立場じゃなくても怖いと思う感情が正直であるとことは許していただきたいのである。
何が怖いって、アレだ。
まず一つは、一瞬でミコトさんが薬草を見つけるその観察眼だ。
どんなに木とか他の草にかくれていても、どんなに小さな草でも、どんなにわずかにしか生えていなくても、ゼッタイ見つけ出すってなんの執念?
しかもミコトさん全然普通なんだよ。きょろきょろしてるとかじっと何処か見てるとかそんなそぶり欠片もないんだよ。
なのにふと馬の足を止めたかと思えば指でふわって薬草指差して魔法で引っこ抜くんだよ。
優雅で神秘的な光景でした。
ミコトさんの目にはいったい何が映っているのか。恐ろしすぎて聞くことができない。
ていうか薬草も薬草である。恐怖の二つ目。何の薬に使うのか、はたまた魔法薬としてだれかを金魚に変えるための材料かは知らないが、さすがは魔大陸。
……えっと。
毒々し……あ、鮮やかなお色と形の薬草でした。
具体的に言えばクラーケンの毒液にそっくりな真紫とか。
自己主張が大変激しいサーモンピンクとか。
こう……あきらかに触手的なものがうねっている何かとか。
それは牙かな……その端っこについてる紅いモノの正体は考えたくないかもしれない……というような何かとか。
……何に使うんだろう。ミコトの腕は確かだということはわかるんだけど、それはもうよくわかっているんだけど。
…………。
常識人四人は賢明にも見なかったことにした。
自由人仲間であるスラギとアマネは楽しそうにその薬草という名の何かを突っついてミコトに怒られるという神経の太いことをやらかしてたけど。
何が楽しいんだろう理解できない。
まあ、ともかく。
そんなこんなで今までと変わりないのかあるのか、……あったんだろうけれども安全・快適には違いないだろう……と、思い込むことで精神衛生を保っているような旅を続けて、数日。
「金目のものを置いていきな」
魔族に襲われるというイベントが発生しました。