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百聞は一見に如かないものです

復活いたしました!

これからまた更新を続けられればいいなと思っています。


 その後の話をしよう。


 スラギにちょっと世界からフェードアウトしてほしかったアマネは武術を学ぶという選択肢を取った。

 全然「ちょっと」とかそんな軽い話じゃないけど今日に至るまでしぶとくスラギはミコトにへばりついているのでまあなんかそういうコミュニケーション手段なのだろう。


 ともかく。


 もちろん爽やかにさらりともたらされたアマネの本音を聞いたスラギは当然の如くまたしてもにこにこ笑いながら不穏な空気を醸し出したけど、それだけだった。

 だってだ。


「てめえらまとめて俺に消されてえのか?」


 腕を組み、小首をかしげて。そんな怖いことを淡々とミコトさんがおっしゃいましてそれがあまりにも本気じみていたもので。


 ああ、この三人って本当に昔っからこの三人でこんな感じで全然変わってないんだろうな、と遠い眼になった騎士団長は全然悪くないと思う。


 でだ。


 そんなこんなで五体満足・平穏……じゃあ全く持ってないけど一応無事、に本日の旅程を消化した七人の現在地は町だ。

 町だ。


 もちろん、魔大陸であるからしてれっきとした魔族による魔族の為の町だ。

 その門前に辿り着いた時の不安と覚悟はいかばかりか、ご想像できるだろうか。

 すくなくとも足を踏み入れるに際して四人、内心非常に緊張していたことは当然といってしかるべきであろう。


 まあ、言うまでもないだろうが緊張したのは四人だ。四人だけだ。


 自由人に緊張とか不安とか疑心暗鬼とかそんな繊細な情動は備わっていないもので。


 まあ……あれだ。別に備わっていなかったからと言ってなんということはなかったんだけど。

 だって、普通だったんだもの。

 ほんっと、この町は普通だった。


 いや、住民は確かに角とか牙とか耳とか生えてたり、肌の色っていうか顔の形っていうかが素晴らしいことになっていたり、腕とか脚とかの数が素敵な感じで大胆に足し引きされたりとバラエティには富んでいたんだけれども。


 そして感性の違いというのか文化の違いというのか、極彩色があふれかえる街並みで気おくれに一役買っていたことは否めないんだけど。


 でもだ。


 そんな光景に、緊張を保てたのは初めのころだけ。


 だって考えても見てほしい。警戒に警戒を重ね、緊張と不安をないまぜにして身構えているというのに、相も変わらない小競り合いをしながら堂々と、自由人は先へと進むのである。


 緊張感もくそもない。粉々である。


 その素敵に図太い神経が心の底から欲しいと思った瞬間だった。


 ……ただ。


 あまりにも堂々と何のためらいもなく歩いていく自由人三人のあとを慌てて付いて行けば、若干の視線は受けるんだけどそれまでで。


 平和だったものだからなんか、あの、理不尽を感じました。すごく。


 ていうか宿は予約していなかったけど、宿の主の大層大柄な赤鬼の(多分)親父さんは快く泊まらせてくれたし。

 あえて虎ではなくヒョウ柄のアロハシャツ的なものを纏った、そんな親父さんはナイスガイ。


 だって「人間は舐められやすいから、戸締りはきちんとしろよ? うちは気を使っちゃいるが、どこにでも手癖の悪いやつはいるからな」とご心配のお言葉までつけてくれたもの。

 入った部屋も清潔だったし。気遣いが行き届いている素敵なお仕事。


 ご飯はミコトさんの美味しいご飯をご相伴にあずかったのでちょっとコメントしようがないけれど。


 そんなこんなでそれぞれの部屋……王女・サロメで一部屋、騎士団長・イリュートで一部屋、ミコト・スラギ・アマネで一部屋に分かれて就寝準備をとてもスムーズに行ってイマココなんだけども。


 ……あれ?

 ナニコレ?


 結構、本気で、構えてたんだけどものすごく普通なんだけど。強いて言うならスラギの毎晩恒例一網打尽狩りイベントにアマネが加わったくらいであって、元の大陸と何にも変わらないんだけど。


 むしろあれだ、あの宿の親父さんの気づかいは常識と良心にあふれていてほれぼれします。なぜって身近な自由人の方が気のせいではなく無邪気な悪意に満ち満ちている。


 ……いや、確かに。


 魔族というのは魔力が高くて知能が高くて寿命が長い種族であって、吹っ掛ければやり返されるけど人間がちょっかい出さなければ何にもしてこない、理性的な種族、とわかってはいた。


 ていうかむしろ魔力が満ちているからなのかなんなのか、作物とかの育ちがいい肥沃な土地柄が魔大陸なので、こっちが関わろうとしなければホント人間の土地なんか興味ありませんよなスタンスらしいってことも聞き及んでたんだけど。


 ……。………。

 うん。

 ――うん。


 わかったつもりでわかってなかったことを痛感したのと、アレだ。


 わかってなくてもなにも気にしない自由人の神経はやっぱりおかしいということを再認識した夜だった。






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