成長期を余すことなく活用しました
「……っていうのが俺とミコトたちとの出会いだな」
はっはっは、と笑って御者台で揺られながらアマネが話した話。
それを聞いていた騎士団長とイリュート。
――まあ多分馬車の中の二人も聞こえているというか聞き耳を立てて拝聴していらっしゃると思うので実質常識人四人。
……なぜこんな話になったかというとミコトとスラギ、アマネの三人があまりにも仲がいいのでアマネもよほど幼いころからの知り合いなのかな、そう思って何気なく尋ねたことが始まりだった。
うん、それが始まりで、確かに聞いたのはこちらで、それに対して懐かしそうに話してくださったわけなんだけれども。
ぶっちゃけアマネと二人の出会いよりもグレン翁の奇行が強烈すぎる。
なにしてんの? 何してんの八十歳。
八十三歳でお亡くなりになったと聞き及んでいるんだけど本当にその奇行の三年後に天に召されるの?
ていうかその三年の間にアマネに何があったというんだ。意外と短い期間だぞ師事していたの。
それなのにこんなことになったと? 感染力が強いのか順応性が高すぎたのか。相乗効果な気がしてならない。
あ、ていうかアマネたちがまとめて金魚にされてお仕置きされた事件も十四年前なんだけど、出会って割とすぐじゃね? ……それで人類を逸脱しているのではないかという疑惑の濃いスラギと張り合って大げんかして山消したの?
……ホント、何がどうなったらそんな短期間で当時の話からすると常識の片鱗が見えていた少年がそうなるの? あれ? 時期勘違いしてる?
ちょっと引き攣り気味に聞いてみた。
すると。
「成長期だったからな」
綺麗な笑顔で言われた。
時期の勘違いじゃなかった。
……えっと、成長期すげえ! ってことでもういいや。うん、もう、いいや。
ともかく、自由人の良識は備わっていないこともあるけど、たとえ備わっていたとしてもやがては駆逐される運命であったとわかった。そういうシステムなんだろう、多分。
………。………………。
気をつけよう。切実に。とくに現在まだ成長期の範囲に属しているであろう王女とイリュート。
毒される。良識を駆逐される。
それは拙い、特に王女。
愛娘がそんなことになったら国王泣く。
そして胃に穴が開くことだろう、境地には行き着いたけど胃薬と友達だから現時点で。
すでに王女は日々たくましくなっている。このままでは彼女が開けてはいけない世界の扉を拳で破壊する日も近いかもしれない。
それはいただけない。
恐怖である。
しかし、旅はやめられず自由人は増殖した。
……いや、王女と彼らの接触を少なくして、良識が残っているうちに彼らの『愉快な』話を聞いてもらえばきっと危機感が芽生えるはずだ。
よし、これからも騎士団長が彼らのとの会話を引き受けよう。
胃への負担は騎士団長にも中々のものがあるけど彼の役目は王女の護衛。
……なぜ一応仮にも仲間のはずの者たちから護らねばならないのか、泣きたい。
ともかく。
「えっと、アマネさんはなんで武術と学問を選んだんだ?」
今後の方針は決めたけど、今は心が疲れているので、当たり障りのなさそうな会話で場を繋ごう。そう思って発した質問だった。
が。
「学問は単純に興味だ。で、武術はあれだよ、わかるだろ」
アマネは言う。
わからんわ。
あれってなんだ、病弱な御母堂を守りたいという美しい心か。持ち合わせていそうではあるけど。
そう思ったので、それを言ってみた。のに。
「いや、母さん守るだけならあの頃はもう実力は十分だった」
……ソウデスカ。相変わらず謙遜という言葉は御存じないようで。
ていうかなんでそんな実力持ってたの?
聞いてみた。
「だって母さん武人だったからな。病気する前はそれで稼いでたし、俺もちっせえ頃からしごかれてたし」
わりとまともな理由だった。
よかった、「初めから出来た、原理なんぞ知らん」とか言い出したら眩暈がするところだった。
しかしではなおさら、なぜ武術。『単純に興味』じゃないらしいし。
もちろん聞いた。
すると。
「そんなのスラギにちょっと世界から消えてもらいたいかなって思ったからにきまってんだろ」
そんな決まりは初耳である。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
このお話は書きやすく、毎日更新できていたのですが、現在学校がものすごく忙しくなってしまいました…。ストックで何とかしていたんですが、それも切れてしまい、この忙しさを抜けるまではほぼ更新できなさそうです。
毎日訪れてくださったかたには申し訳ありません( ノД`)…
来月までにはカタをつけて戻れるようにしようと思っています…!
長文、失礼いたしましたm(._.)m