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彼はそれでも老齢です


 ミコトは言った。


「師匠の奇行が過ぎるからだ」


 と。

 それはやっとのことで、『なぜ弟子入りが薬代の代わりになるのか』というアマネの疑問へ返されたミコトの答えだった。


 なるほどわからない。


「……奇行?」


 ひくり、頬をひきつらせて聞いた。夜突然踊り出すとかだろうか、と重ねて尋ねてみる。

 しかし。


「そんなのだったら気にするか。張り倒して大人しくさせれば済むことだ」


 気にしないんだ。そして張り倒すんだ。一応仮にも師匠だろうに。


「……じゃあ、なんだ?」


 いろいろ渦巻くものはあったがスルーしてアマネは尋ねる。この辺り、適応力の高さが垣間見えていた。


 ともかく。

 アマネの問いにミコトは冷静に。


「まず、いまグレン爺さんは画家を志しているんだが、そのために森に入ってわりと平気で二週間ぐらい帰ってこない」


 ……。


「……爺さんだよな?」


 思わず聞いた。すると。


「八十の爺だ」


 ミコトは深く頷いた。しかしそれで奇行は終わりではないらしく。


「しかもほとんど飲まず食わずで過ごしているらしく、スラギが見つけ出した時には瀕死になっている。だがそれでも絵をかこうとして聞かない」

「自力で帰ってこれねえほど衰弱してんの?」


「干からび具合が日々進行している。家にいても一度集中するとほどんど声が聞こえていないようでな、縛り付けないということも聞かん。それでも縄ぬけするしな」

「……」


「そのうえ家でも唐突に何かを描き出すことがあるし、俺やスラギをモデルに描き出したあげく動くなと要求してくるし」

「……聞くのか、その要求」


「阿呆か、そんなくだらんことはやっていられない。一人が気を引いているうちにもう一人が殴り倒してそんな記憶なかったことにするにきまっているだろう」

「記憶の改竄!?」


「あの爺さんの脳回路は単純だから割と簡単に飛ぶ。何度もやっているうちにピンポイントで飛ばすことを覚えた」

「飛ばす記憶を指定する技を会得? すげえなお前ら!」


 アマネは素直に感心してしまって拍手をしたが、ミコトは平静なまま。


「とにかく迷惑している」


 その眼は、ひどく、冷たかった。

 ……えっと。


「その奇行と、俺が弟子入りすることと何の関係が?」


 アマネは根本的なことに疑問を抱いたので尋ねてみた。

 すると。


「あの人は、教師が向いているんだ」


 端的な答えが返って来たので、もうちょっと詳しくお願いした。


 曰く。


 グレン翁は奇行には及ぶが能力は高い人物で、師としては教え方も上手いのだという。そして、教えるという行為は好んでもいるらしく、そのことならば比較的耳に届きやすく現実にすんなり帰ってくる。そのため、奇行も許容範囲までに抑えられるのだという。


 しかしいかんせん師匠が個性に富み過ぎていてよほどの人間でないと弟子としていついてくれないのだという。


 ……アマネの前に犠牲者は数名いたらしい。みんな逃げたが。


 抑えられるとは言っても奇行がなくなっていない時点でよほど図太くないと無理だと思う。兄弟弟子がミコトとスラギだし。ミコトとスラギだし。


 ともかく。


 そのミコトとスラギでは、武術や薬学に関しては既にほぼ学ぶことがないために、グレン翁の奇行は留まるところを知らないとか。


「……お前らが芸事とか経済その他の学問とか、学べばよかったんじゃないのか?」


 アマネは当然のように聞いてみた。

 が。


「興味がないことに時間を割く趣味はない」


 即答だった。

 なるほど。


「で、お前は何を学びたい?」


 話が一段落したと感じたのか、ミコトは再度尋ねた。だから、アマネは少し考えて。


「じゃあ、武術と学問で」


 まあ何とかなるだろう、そんな思いの下で己の選択を告げたのだった。


 これまでの話を聞いてなお、決断力のある十三歳である。







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