同族嫌悪ですので
爽やかに実の父親を脅して自由を勝ち取って来たと宣言するアマネ。
一国の皇帝相手に何をやらかしているのだろうか、怖いもの知らずである。
が。
「なんだ、潰してこなかったのか」
「あははっ、一網打尽にして来ればよかったのに~」
自由人が何か言い出したっ!?
『潰してこなかったのか』ってミコトさん、メンツは丸つぶれだと思うよ? 精神もボロボロだと思うよ? それでも足りないと? 物理? 物理でつぶして来ればよかったのにって思ってるの?
そしてスラギよ、『一網打尽』ってなんだ、何を狩り尽くすつもりだ。希望か? 希望なのか?
そりゃ黒金二人は子供の分際で大国崩壊に導いて無邪気を装う鬼畜かもしれないけど! みんながみんなそうじゃないからね?
そう思って絶句していた。
のに。
「「お前ならできたろう?」」
「出来たけど」
微塵も疑わずに尋ねた自由人ども、謙遜のかけらもなく肯定したアマネ。
出来たんかいっ!?
「でもそこまでする労力がすっげ無駄だと思った」
「「ああ、そりゃそうか」」
なんてふざけた理由で命拾いしているのかセルジア皇国。アマネにやる気がもうちょっとあったら消えてたってことですかそれは。そしてそのふざけた理由で心底納得するミコトとスラギって。
うん、先ほど表情筋の働きによってアマネをわずかでも常識人寄りだと思ったのは大いなる間違いだった。
明らかにアマネさんはあちら側の人間だった。
アマネが怖いもの知らずっていうか自由人は多分『恐れ』とか『畏れ』とかいう感情が最初から備わっていないのだろう。
そんなものが三人も揃ったところでいよいよ本当に世界の崩壊を危惧するべきかもしれない。自由人は影響を受け合い増殖する生き物のようだ。未来は危うい。
いや、言っても仕方ない。いったんあきらめよう。
ともかく。
「まあ、なんでもいいけどよ」
全然何でもよくないと思うけど、アマネはリリアーナに視線を戻して改めてそう切り出した。
「俺は身分なんていらないし、国に感謝もしてなけりゃ誇りもねーんだよ」
だろうなあ。
「だからここに来たんだ。別に国ならほかの皇子でもなんとかなるだろ。……一応原型留めてるし」
まってぼそっと怖いこと付け加えたこの人。『原型留めてる』ってそれ『国』が? それともアマネの『兄弟皇子』が? ……『一応』?
……。
うん、怖いから追及するのはやめておいた騎士団長である。
それよりも、と視線は王女・リリアーナに集中する。
「誇りが……ない?」
茫然、そうとしか表現できない声で王女は言う。まあアマネの軽快な過去話に最初から最後まで開いた口がふさがらなかったようではあるけれど。
「ないなあ。それでも一応最低限の義務は果たしたんだ。十分だろ?」
こてん、首を傾げたアマネ。
……なぜだ、アマネといいスラギといい時にはミコトさんまで。二十代も半ばを過ぎた男がする仕草ではない。しかし似合う。美形か、美形だからか。
爆散してしまえ。
いや、話を戻そう。
「……ならば、貴方の誇りは何処にあるのです、」
力なく、王女は尋ねた。
それに、アマネは。
「そりゃあ、もちろん、」
ニコリ、それはそれは魅惑的な微笑みで。
「ミコトの隣に居られることにきまってる」
恥ずかしげもなく愛を告白したものだから王女は今度こそ撃沈した。
言った本人はミコトになついてるけど。懐かれたミコトは邪魔だとばかりに蹴り飛ばしてるけど。そしてそれでもアマネさん嬉しそうだけど。
ミコトの信者はスラギだけではなかった。
何故ってもはや見慣れた光景過ぎた。