『旅の同行者』の定義を三十文字以内で述べなさい
さて、なぜそこでスラギなのかの話を続けよう。
スラギは自由である。
騎士団長の言うことはおろか国王の言うこともあたかも当然のような顔で聞かないというのは周知の事実過ぎて笑えもしない。
だがしかし彼は王国騎士である。
正しく言うのならば、『王国特別騎士』である。
『特別』というだけあって、通常の場合の任務は特には課されていないうえ、大幅な自由を認められているという破格の待遇。
ではなぜ彼がそんな立場を手に入れたのか。別に何かの間違いでうっかりとかそんなわけではない。
単純明快である。
はっきり言って強いからだ。
騎士団員が束になっても片手であしらわれてしまうくらいに、強いからだ。
悔しいことに。
国王と騎士団長が頼み込んで、特別騎士団員として無理やり引きずり込んだくらいなのだ。
まったくと言っていいほど御せていないけど。
つまり総合するとスラギという男は美形で強くてメンタル最凶。
神よ何故この自由人に何物をも与えながら良識を与えなかったのだ。
理不尽かつ不公平かつ釈然としない。
禿げてしまえと騎士団長が割と本気で願っているのは余談である。
ともかく。
そんなこんなで諸々の流れから言うと。
「スラギは絶対ついてきてもらわなきゃならないってのに、あんたがこなけりゃいかねえって駄々こねて聞かないんだよホンット勘弁して俺を助けると思ってついてきてくれミコトさん!」
叫んだ騎士団長は土下座で号泣。
男の中の男と尊敬を集めるユースウェル王国騎士団のその頂点であるという誉のはずがどうしてこうなったというような全身疲労を漂わせていた。
だがしかし類というのは友を呼ぶ。
「で、俺がそれについて行って得られる利益は何だ?」
自由人の知人は自由人だった。
土下座で号泣に眉ひとつ動かさない冷静さ。
残酷である。
そこへ。
「あ、俺と一緒に旅ができるよ~。懐かしいでしょ?」
はいはいはーい、とスラギが横から挙手してきた。
満面の笑みだった。
が。
「ふざけてんのか。それは利益どころか不利益だ。『一緒に旅』なのか『旅の途中でわりとよく出会う』なのかわからんぐらい途中で行方をくらますだろうが」
それは本当に大丈夫なのだろうか。
スラギが『懐かしい』と言っていたからには過去、そのような旅をしていたのは本当なのであろうけれども。
騎士団長は一抹どころではない不安が心の中で増殖する。
おもに現在懇願している魔王への道のりについて。
しかしスラギは笑うのだ。
「あははっ、で、いなくなった俺を待つことも探すことも一切しないで先へ進むのがミコトだよね!」
それは本当に一緒に旅をしていたのだろうか?
ミコトが進む先にスラギが出没していただけではないのだろうか?
清々しすぎるミコトの所業に若干胸が空かないこともない騎士団長だけれども、不安は今や見てみぬふりができない。
ミコトが万一同行を許諾したとして、スラギだか王女だかにかかずらっている間に問答無用でおいて行かれる未来しか見えなかった。
そしておいて行かれても飄々とスラギが一人でミコトに追いつくものの、やっぱりその他である王女及びその一行は放置の方向であることがものすごく想像できてしまった。
騎士団長は目の前が心なしか歪んで見えた。
が。
ここで、思わぬ救いの手が述べられたのである。