彼は自由人の仲間です
理不尽を感じて身をふるわせた、常識人にふみとどまる人々。言葉も出ない。
が。
「そんなのは横暴ですわ! 王族の責務を何だと思っていらっしゃいますの!」
声を震わせ、叫んだ者がいた。
王女・リリアーナであった。
そのまま彼女は、きょとん、と言った顔をしたアマネにつかつかと歩み寄る。
「面倒くさいからいらないからと……いったい何が笑いごとですの!」
彼女は激怒していた
有り体に言えばブチ切れていた。
なるほど王女も王族、その双肩に責任は重く幼少のころからかかっていることは理解しているだろう。
ていうか、色々あってホントうっかり忘れそうになるけど、まさに今現在その肩書きのせいで王女はこんなところにきてこんな自由人どもに翻弄されるという憂き目に合っているのだった。
そりゃ怒る。
だってアマネさんホント軽いんだもの。羽のようにふわっとさらっと言ってのけたもの。
「ん? ああ、あんたユースウェル王国の姫さんか」
アマネはきょとんとしたまま言った。
ああ、知ってたんだ。流石に隣国の王女のことは知ってたんだ。そして何? この人もやっぱり人の名前呼ばない系? かりにも(元?)皇子が超フランクだし。
「横暴……責務、ねえ……」
そうしてアマネは、ちょっと困った様な顔をする。
なるほど、今この場で全然関係ないけど金と黒の自由人に比べてアマネの表情筋はその存在意義を果たしていることが判明した。もしや比較的常識人に近い感性を持っているのかもしれない。
サロメとイリュートはリリアーナをなだめていたが、騎士団長は独りそんなことを思っていた。
現実逃避である。
が。
「あのなあ、俺って庶子だろ? あのエロ爺のせいでな」
アマネが困った顔のまま言い出したので現実に頭を戻した。
その『エロ爺』とは現セルジア皇国皇帝のことであろうか? 的確な表現である。
ともかく。
「んでさあ、母さんともども町で暮らしてて、グレン爺さんとこに居たんだよ。けど爺さんが死んだ直後くらいだったっけ? 国の奴らが『見つけたー!』とか言いながら人さらいのように俺を連れ去ったんだよなー」
……へえ。
いや、すごくさらっと言ってるけど結構な大騒動だったんじゃない? それ。
ぼそっと騎士団長はつぶやいた。無意識だった。
しかし。
「ああ、そう言えば俺とスラギはちょっと遠出をしていた時だったな。帰ってきたら町が半壊していた」
ミコトから返答があった。
うむ、想像にたがわない。ていうか山ひとつ消し去った輝かしい実績からすると穏便だった方なのだろうか。
顔をひきつらせた。すると横から、今度はスラギが。
「そうそう、それでどこ行ったんだろうね~って言いつつまあいいかって言ってたら、」
言い出したんだけどちょっと待とうか、一回流そうとしてない? 『まあいいか』って言ったの? 心配とかないのかこいつら。アマネ曰く『人さらい』のようだったんだろう? 町が半壊という現実が目の前にあったんだろう?
薄情さにアマネが哀れになった。
が。
「アマネが帰ってきてねえ」
帰ってきたんかい!?
心配いらなかった!
ていうか帰ってこれたんかい!
「『面倒臭いのに見つかったから、文句を言われないに程度に潰してくる。終わったらまた会いに来る』って言って笑ってまた城に戻ってったんだよねえ」
それはそれは真っ黒な笑みであったことでしょう。
ていうか『潰してくる』って何するつもりだったの? そして皇族抜けるのはその時点で決定事項だった? 変わらぬ鋼の意志だった?
「俺は町暮らしがあってんだよ。母さんさえ捕まんなきゃ最初っからトンズラしてたんだけどな。まあもともと病気してたから数年で母さんは死んじまったけど。そっからはさあ、出てこうとしたら『税金で暮らしておいて』ってうるさくって。だからだったら還元してやるよっていろいろ? やって? そしたら今度は兄弟に命狙われ始めて? 意味わかんね。で、こないだ世話になった分の金は返したってことでエロ爺をおど……説得して、ここに来たんだよ」
此処なら国の阿呆どももそうそう追っかけてこねえだろうし、とか爽やかに笑ってるけど壮絶だね? そんな笑って話すような軽々しい過去じゃなくない? その疑問符が一杯の『いろいろ』って何だろう? そして有能だったのはそういうわけだったの? というか父皇帝脅してるね。……ネタは何だ、ちょっと興味あるんだけど。
聞いてみた。
すると。
「もちろんエロ爺の女関係と馬鹿みてえにばらまいた子種の所在にきまってんだろ」
エロ爺の、まさに自分で蒔いた種だったと判明した。




