精神よ強くあれ
うん、もう少し優しい言葉でもう一度言ってほしい。何? どういう事?
仲良くスラギとともにミコトに説教されていた男が実はセルジア皇国の皇子かもしれないという可能性を王女がぶちまけて、それをあっさり過ぎる感じで軽快に肯定されて。
それだけでも十分理解は追い付かず混乱の極み。
のに!
この上にかぶせられた『俺皇族やめてきたから』とかいう爆弾発言に騎士団長たちは呆然と自失していた。
だがしかし。
「ああ、とうとうやめてきたんだ~」
「お前にしては持った方だろうな」
金と黒の自由人たちはとてもいつも通りだった。
待て、どういう事だろうか。
『とうとう』って何? 『お前にしては』ってどういうこと?
いやその前に知ってたんだ? この自由人どもアマネの正体がセルジア皇国第四皇子セドリックだって知ってたんだ?
喧嘩は尽きないもののすごい気安いお友達関係だし、ミコトに至ってはアマネに溺愛されている様子が見受けられるしまあ知らない方が疑問だけど。
でも、あれだ。
知ってたならそういうのは先に言おうか?
お知らせして情報を共有しようか?
びっくりしちゃうから。ね?
自由人に言っても無駄だなんて百も承知だけど!
ていうか、皇族と昔から付き合いがあったとは。たしか『セドリック皇子』は庶子で、市井で育ったというからその時出会ったのだろうけど。そして皇子は自由人の泥沼にはまり込んでこんなことになっちゃったんだろうけど。
そうか、でも『皇族』の人間と親交があったから現在、自由人どもは王女・リリアーナにもあり得ないほどフランクなのだろう。慣れているんだな、いろんな意味で。
いろいろ突っ込みたいことはあったが、そこは妙に納得した。
が。
「だっていい加減面倒臭くってよ。『友人』とか言いながらみんなへりくだってくるし。お前らなんて俺の身分話しても『へえ』で終わりだったのにな。貴族って意味わかんね」
違った。
自由人の無礼は骨に刻まれた変えられぬ真理であったようだ。
そしてアマネよ、傅かれるのが『意味わかんね』で『へえ』でどうにも複雑であろう身の上話を流した自由人どもは数年の空白もなんのそのな好意を抱いているんだね。
なんという事だろう、自由人に完全に取り込まれている。
その威力、脅威である。
ていうか。
「皇族やめた理由って、『面倒臭い』からなのか……ですか?」
ついとっさに敬語が出てこなかった騎士団長、慌てて立て直しながらも聞く。
「あ? ああ、別にさっきまでみたいに話していいって。言ったろ、俺もう皇族じゃねえし。そんでなんだっけ、ああうん、めんどくせえから辞めてきた、そんだけ」
そうか、それだけか……。
さて。
どこからどう突っ込めば精神的負担が少なく済むのであろうか? 難題である。
有能な王子なんじゃなかったっけ? 時期皇帝と目されてるんじゃなかったっけ?
そんなお手軽に身分てポイできるものだっけ? そしてポイできたとして何がどんな理論を組み立てて魔大陸の魔王城訪問とかいう行動につながったわけ?
おかしいよね? 何もかもが可笑しいよね?
自由人は『あはは、だよねえ』とか『そもそもお前が数年でも我慢できていたことが不思議だ』とか言ってるけど。当たり前みたいに受け入れて談笑してるけど。
疑問を呈す此方が可笑しいの? おかしいと思うコッチが常識がないの? 違うよね? 違うって言って。
なんで常識を持っているはずの騎士団長たちが戸惑いを覚えて不安になっているのに常識を可燃ごみに出した自由人が自分が世界の真理みたいな顔してるの?
解せぬ!