正しい選択肢を教えていただけないでしょうか
そうして。
なんだかんだ言いながらも、ようやく七人で出発、という段になった。しかし当然、アマネの馬はない。そこで御者台、イリュートの隣に座るということで話がついた。
が。
馬車に乗り込むに至って、近くでアマネを見た王女・リリアーナは首を傾げる。
いや、違和感は正直言って、初めからあったのだ。
どこかで。
見たことが、ある、ような。
いや、――見たことがある、というよりは、……聞いたことがある、のか?
赤茶色の髪。左目の傷。整った容姿。年齢。その珍しい着物という装い。
「……」
何処で聞いたのだったか?
……実を言うと『思い出してはならない』という脳みその警告はひしひしと感じるのだが、同じくらい『思い出さないとまずい』という危機感も感じるのだ。
どういう事だろうか。
何処で耳にしたのだろうか。
『アマネ』とは何者なのだろうか。
王女は思い出せそうで思い出せないもどかしさに眉をひそめた。
「……リリアーナさま? どうなさったのですか? ご気分でもお悪いのですか?」
それを見たサロメが心配げな声を上げる。自由人の暴挙に神経が耐えられなかったのか、と視線で語っていた。
にわかに注目が王女に集まる。
そうして、かちり、ミコトと目が合った。
「あ、」
そう言えば。
ミコトは先ほどのアマネの説明で言っていた。彼はグレン翁のところで共に師事した知己であると。
そうグレン翁、ということは、彼等の出会いはユースウェル王国の隣国・セルジア皇国だという事だ。いやまあ出会ったのが何時かによっては違うかもしれないけど。何しろ途中までは旅芸人か何かでグレン翁はふらふらしていたらしいので。
ともかく、アマネも幼少期、セルジア皇国に居たことは間違いないわけで、つまりは彼の情報をリリアーナが知っているというならばセルジア皇国関連で聞いた、という可能性が高いというわけで。
と。
そこで。
「……リリアーナさま?」
サロメが怪訝な声を上げて顔を覗き込んでくるくらい見事に、リリアーナは固まった。
(ま、さか)
ひく、頬が引き攣る。
だがしかし、思い返せば思い返すほどに『特徴』は一致して仕方がない。
だから心配そうなサロメを置いて、リリアーナは一歩、踏み出した。
「ちょっと、いいかしら」
その声に、既にそれぞれの準備に戻っていた男性陣が振り向いた。視線が集まる中、リリアーナはただ一人、アマネに目を向ける。
そして。
「アマネ様、と名乗っていらしたけれど、あなた、は」
ひくひくと、引き攣る頬を叱咤して。
「セルジア皇国第四皇子、セドリック・セルジア様じゃありませんの?」
言った。
すごく勇気が必要な行為だった。
でも一致したのだ。会ったことはないが、隣国ということで情報は入る。リリアーナの婚約者候補として名前が挙がったことすらある、その人物。
名前こそ違うけれど、でも。
赤茶色の髪。左目の傷。整った容姿。年齢。その珍しい着物という装い。
――セドリック・セルジア。
セルジア皇国皇帝の庶子であるがその能力はずば抜けて優秀。高齢にもかかわらず未だ君臨している隣国皇帝の跡継ぎとして、兄皇子たちを差し置いて、身分をも乗り越えて指名されるのではないかと注目されている。
騎士団長・サロメ・イリュートの三者は呆然唖然。
しかし隣国皇子については三人も聞き知っていたのだろう、顔色を悪くしている。
自由人は相変わらず自由人だったけど。
沈黙。
そして。
「あれ、知ってんだ? そうだけど」
軽快に肯定された。
……肯定された!?
いやいやいや、ならば一人で何してんだこの人!
が。
「でも気を使わなくていいぜ、俺皇族やめてきたから」
真顔でさらりととんでもないこと言いやがった。