犠牲はつきものです
スラギとアマネ。がったがた震えている二人であったが、何とか説教は終った。
嘗てミコトが執行したという鬼畜なお仕置き内容を聞いてた騎士団長以下四人もがったがたに震えあがってるけど。
そんな局地的地震が起っているかのような六人を完全に無視してミコトさんは麗しい御尊顔をわずかも崩していませんけども。
でだ。
「お前、結局ここに何しに来たんだ?」
おもむろにミコトは至極平然と、今だ引き攣って顔色のすこぶる悪いアマネに話を振った。
しかも以外と本題だった。
一斉に視線は赤茶髪の青年に集中する。
と。
「ああ、そりゃ目的は一つだろ、魔王城に行くんだよ」
至極当たり前のようにのたまった。それにミコトは。
「そうか」
一つうなずいて返したのである。驚きとか突っ込みとか一切なかった。アマネさん一人で来たのに。小舟で来たのに。しかも魔王城に来たってことは魔王に会いに来たのに。
目的とか安否とか案じるべき用件は他にないのか? 本当にないのか?
「なら俺たちと同じだな」
なかったようだ。
ミコトの返答はそこで簡潔に終了していた。
対して。
「マジで? じゃあ一緒に行こうぜ! 久しぶりにミコトの美味しいご飯が食える!」
アマネはキラキラしていた。
案じるべき用件はアマネ本人にとっても存在していなかったらしい。
彼にとってはミコトの美味しいご飯の方ががぜん価値が高かったことは瞭然だ。
さすが自由人の仲間、剛胆である。
いや美味しいご飯は本当においしいので気持ちは騎士団長たちにもすごくわかるんだけど。
ともかく。
「……まあ、俺は構わないが」
アマネの提案にミコトは肯い、ちらと騎士団長たちを見る。こちらとしてもまあそうなるだろうと思っていたし、否やはぶっちゃけあったけどミコトがいいと言った以上どうせついてくる気配がひしひしとするのであきらめの境地でうなずきを返した。
が。
「ええ~。アマネも来るの? 一人で勝手に行けば? しかもミコトの美味しいご飯食べる気でいるし。生意気~」
にこにこ笑いながら金髪の自由人が毒を吐いた。
またしても。
すると案の定。
「てめ、美味しいご飯は皆のものだろうが! ミコトは構わねえって言ってるし、お前に口出す権利はねえんだよ!」
アマネがかみつき返す。
いや、うん。論旨が可笑しい気がするけど『おいしいご飯は皆もの』っていうのは全員一致で異議なしです。
しかし。
「ミコトの美味しいご飯は俺のだよ? 優しいから分けてあげてるの。知らなかった~?」
異議は存在したらしい。
というかおいしいご飯とはそういう存在だったのか知らなかったんだけど。騎士団長たちが毎食ご相伴にあずかっていたアレはスラギの慈悲だったのか? ミコトの善意でないのか?
これにはアマネだけではなく全員の顔が引き攣った。
だっておいしいご飯の危機だもの。要約するとスラギに嫌われたらおいしいご飯食べれないって言ってるんだもの。
やだ、理不尽。
しかし声を荒げたのはやはりアマネで。
「てめっ……」
――が。
「スラギ、アマネ」
ぞっとしない声がした。
「――まだ、懲りないのか?」
ひんやり、ひんやり。
おかしい、場所的に北だが季節的には夏なんだけど。
寒い。寒すぎる。
しかし温度はそのまま。
「今度は、ピラニアと遊泳を楽しむか?」
ミコトは言いました。
それはもちろん金魚にされた挙句魔法も封じられた至れり尽くせりの状態でですよね。
これを聞いた騎士団長たちは真っ青になった。スラギとアマネは顔を見合わせた。
そして。
「「ごめんなさい」」
綺麗に九十度に腰の折り方は揃っていた。
慣れている。
そして結論。
スラギとアマネはミコトへの好意が高じて学習能力を犠牲にしたようだ。
哀れである。