眠りへいざなう薬です
どうしよう。
どうすればいいんですか助けて。
切実にそう思っていた。目の前ではにこにこ笑う金髪と青筋を立てた赤茶髪の青年との拳を交えたけんかが今にも勃発しそうだったのだからさもありなん。
が、その喧嘩は寸前で。
「だまれ糞ボケ共」
という天の声とともに。
ごいん! ごいん!
間髪入れない拳が金髪と赤茶髪、両者に流星の如く振り落とされて静かになった。
喧嘩両成敗。
容赦がなかった。
さすがミコトである、一瞬で二人とも確実に黙らせた。その手段物理だけど。暴力一択だったけど。
まあよかろう、言い争いの原因があまりに下らなかったことは騎士団長たちにもわかる。分ってて止められない剣幕だったけど。
何はともあれやっと静かになって何よりである。
……いやでも、あれ? 本当に静かになったんだけど。
動かないんだけど。
いつもならへらへら笑いながら不屈の生命力で蘇るスラギすらも沈んだままなんだけど。
えっ。……生きてるよね?
すごく不安になった。
が。
「ったく」
言って手をはたくミコトさんは眉ひとつ動かしていないからまあ生きているだろう。……多分。
うん、ここはあれだ。
「あの、ミコトさん? その……止めてくれてありがたいんだが、なんというかそこの男っていったい誰だ……?」
静かなうちに疑問を解消するに限る。騎士団長以下四人の目線は既にミコトに固定されていた。
自由人に毒された、常識人だったはずの四人も大概合理的である。
ともかく。
「ああ。これはアマネ。俺やスラギと同じ、グレン爺さんのところにいた昔馴染みだ」
ミコトは簡潔に情報を提供してくれた。何気に『これ』とかぞんざいな扱いだけど仲がいい証拠だろう、おそらく。
そしてその情報に騎士団長たちはなるほどと深く納得する。
わかった変人だな、と。
変人の仲間だな。だってグレン翁の弟子なんだろ。グレン翁多才すぎてなんの弟子か知らないけど。
こんなところに彼の個性に富んだ老人の弟子が三人も集結するとはいかな運命か。
まさかの邂逅である。
うん、グレン翁よ、ミコトとスラギだけでは飽き足らず、着実に後世っていうか騎士団長たちに精神的疲労を強いているな。
だって見るからにアマネさん自由人の仲間だもの。片足どころか両足浸かって抜け出せないもの。
ミコトとスラギが名前を呼んだこと然り、スラギと言い合いをしていたこと然り、その言い合いの原因がどうやら黒髪の麗人にあるということ然り。
ああ、ややこしいことになりそうだ。
ていうかなんでアマネはこんなところに来たんだ。「ちょっと旅行で」とか言わないよね、幾ら自由人の仲間でもそんな気軽に来れる土地じゃないと思いたいんだけど。
だって魔大陸だもの。
魔王のおひざ元だもの。
誰かは判明してもその他はさすがに本人に聞かねば判明しようがない。
判明しようがないから聞くしかない。
が。
とりあえず二人が全然起きないんだけどどうしようか。