話題とテンションが合致しません
※シリアス要素注意!
最後の最後にミコトさんがぶっこんできます。
過去から現在まで『人間』という存在がとても残念だったかもしれない件について。
やめて。脳内にミコトの『人間は莫迦だからな』というセリフが重みをもってリフレインする。
馬鹿で申し訳ございません。
ともかく。
「あー……。そういう、『先祖返り』ってのは、今までにもいた事ってあんのか?」
さらりと言われた事実が重すぎてそろそろ胃もたれしそうだったので騎士団長は話題を変えた。
「いなかったんじゃない? 少なくとも会ったことないよ~。団長たちも聞いたことないんでしょ~?」
あはっと笑ってスラギが答えた。そうか、自由人の被害はここに凝縮されているのかなるほど。はた迷惑に限りがないわけである。
まあ、よく考えればそうそう『先祖返り』など産まれてたまるものか。
大体がミコトの言う「リゼの遺跡」とは数億年前の超古代文明だ。例えばその頃に『両性体』という人間の特性が消滅したとしようではないか。……消滅の理由が阿呆すぎるとかは置いておいて。
で、現在までの長い長い時間、もしも何人も『先祖返り』というものが生まれていたなら一つくらい記録に残っているはずで、それは歴史的大発見になるはずなのだ。
歴史的、大発見に、なるはず、なのだ。
それが通常の反応であってこんなライトに話されるべきではないのだ。本来。本来。
……すくなくとも、ミコトの言葉を借りれば『先祖返り』は『神聖魔法』や『全属性魔法』につながる。ならばそれは注目を浴びないはずがない。
のほほんと笑っていらっしゃるけれどもスラギはユースウェル王国の最終兵器で砦だ。公にしているわけではないがその能力は各国の王が知っていて、ひそかな脅威とされている。
だってスラギ自重しないし。高らかに笑ってやらかして帰ってくるし。
ていうかそもそもかつてスラギはギルドにも所属し、派手に動いていた。知っている者は市民でも知っているだろう。
だってスラギ昔から隠す気ないし。被害を受けるの自分じゃないって思ってるものあの人。
いや、実際被害受けるのスラギじゃないけど騎士団長と国王が過労で倒れるのでやめていただきたい切実に。
ともかく。
スラギは、歴史に残る偉人なのだ。
これでも。
だから今までに『先祖返り』がいたにせよ、それは本当に表に出ないほどのわずかな数であったに違いない。そして自由人ではなかったに違いない。
むしろ現在、同時代に二人も自由人に生まれたあげく仲良しこよしでじゃれあっている現状が異常なのであろう。
そう、異常だ。
自由人自由人と連呼しながら自由人の奔放さを見ると安堵するほどに麻痺していたけれども。
これは、異常なのだ。
目の前の存在は、普通じゃない普通じゃないといいながら慣れきってしまっていたけれど、全く持ってホントに全然普通じゃないのだ。
「……お前らの親御さんって、苦労したんだろうなあ……」
思わず、しみじみと漏れた一言だった。
しかし。
次の瞬間騎士団長はばっと後ろから侍女・サロメに口を押さえられる。素晴らしい手の早さだった。
「!?」
もちろん騎士団長は驚き、ばっと振り返る。
しかしそこにはにっこりと冷ややかな奥方が。
何だどうした、と問おうとして……気付いた。
「あっ……」
そういえば、いつだったかミコトもスラギも、「親はいない」のだろうと思わせる発言をしていたことがあった。いい大人が相手ではあるが無神経だった。
が。
「『親』か。まあ、苦労はしたんだろうが、今はどうなんだろうな」
「俺も分かんないねえ。まあいいけど~」
……ん?
「探す気も起きんが」
「まあね~」
……あれ?
「え? ……ご存命、なのか?」
思わず聞いた。すると。
「あ? 父親はあったことねえからどうだか知らんが、母親は生きてると思うぞ。何処にいるかはやはり知らんがな」
「俺も、母親は死んじゃったらしいけど~、父親はどっかにいると思うよ~」
……んん?
「えっと。それは、その。どういう?」
困惑しきりのサロメが騎士団長の後ろから尋ねた。動揺の為かその手は未だ騎士団長の喉元をわしづかんでいたけれどもまあ彼女も旦那を縊って天界へ送り出す気はないだろうからよしとしよう。
それよりも。
「……ああ、俺とスラギは親に売られたからな、ガキの頃に。そもそもこいつに出会ったのも奴隷商館が最初だぞ」
言ってなかったか、といういつもと変わらぬ平然とした御様子で、ミコトさんはおっしゃった。
……。
まってすっっごい重たい発言が紙風船の如く軽快に飛び出してきたんだけどどうしよう。
というわけで次から自由人の濃厚な過去に足を踏み入れます。
でも黒金なのでライトにいくと思います。