この世界の人間よ刮目せよ
なんていうか、もう努力やめようかなと思ってしまうような自由人の容赦ない発言に脱力した騎士団長以下四人。
しかし、自由人には考えるだけ無駄。疑うことも無駄。なんでそんなことが可能だったのだと憤りをぶつけることも無駄。
無駄なのだ。
「……その、石碑にはほかに何か、書かれていたのか?」
だから従順に次の質問に進みましょうそうしましょうという脳の命令を騎士団長は忠実に実行した。
すると。
「俺の神聖魔法や、スラギの全属性魔法、あれはかつての人間には珍しくなかったようだな。要は、俺たちがそれらの魔法を今使えんのも『先祖返り』だからだってわけだ」
そういえば、くらいのノリでミコトは暴露した。
……そう。もう驚かないよ。うん、何かそんな気がうすうすしてたからそうなんだろうね。ミコトとスラギ、どっちもおかしい魔法の使い手で、そのどっちもが『先祖返り』なんだもんね。それしかないよね。
……あれ? でもだ。
今まで気にしたこともなかったけれど、騎士団長はふと思った。
「変だな。全属性とか神聖魔法とか、すげえ力だけど、なんで使えなくなっちまったんだ?だいたいそもそも、なんで『両性体』ってのはいなくなっちまったんだ?」
そうだ。
男と女に分かれた人間が出現し始めたとはいえ、急に『両性体』の人間が消滅したわけではないだろう。
そしてミコトとスラギをみてみよう。かつての人間すべてが彼らのような『素敵な』性格をしているとは思わないが、少なくとも今現在忘れているけど実行中のとんでもない速さで見もせずに船を操縦するような規格外を全員が持っていた、ということになる。
それが間違っても滅ぼされる、なんてことはないだろうと思うんだけど。
すると。
「は? ああ……『両性体』ってのはどうも、性欲というか、繁殖力が薄かったらしいからな」
……。
……うん?
美女から出てくるには若干耳を疑う単語に呆けた。
しかしそこでスラギが笑い。
「ん~、男にも女にもなれるっていうのは、ある意味『満たされている』存在って感じらしいんだよねえ~」
スラギが説明してくれたが、うん、『満たされている』? ……いまいちよくわからなくて首をひねった。
と。
「あ、ほらほら、ミコトって男の子にも女の子にも興味ないでしょ~。そんな感じかな?」
「「「「なるほど」」」」
ぽんと手を打って加えられた言葉にすげえ納得した。
つまりだ。
興味なかった→子供ができない→人数減る→絶滅しちゃった、みたいな?
なるほど。
うっかりさんか!
「……魔法は?」
絶句していると控えめにイリュートが重ねて尋ねた。
そして答えは。
「スラギが『両性体』というのは『満たされた存在』だといったな。『全属性魔法』や『神聖魔法』にはそう言った安定した肉体が必要なんだろう。俺たちがそれらをつかえるのも『先祖返り』の『両性体』だからとも言ったばかりだろうが。魔族の方が人間よりも保持属性が多いことがある理由もそれだな」
ミコトさんの説明は丁寧でした。
ああ、魔族って長命で頑健で魔力も豊富で扱いに長けている者だもんね。
納得である。
が。
……あれ、ちょっと待とうか。
それってあれじゃない? うっかりして絶滅しなきゃ『両性体』って魔族より強かったんじゃない? 男女に分かれて繁殖力を得た代わりに天から与えられた恵みを泥に捨てたんじゃない? 自滅してない?
……………。
この世界の『人間』とは過去も現在も、ちょっとどころではなく致命的にのんびり過ぎるのかもしれなかった。