経験が物を言っています
ミコトとスラギはサロメいわく満点らしい。何を基準にしてたたき出した数値かは知らないけど。
「どうしたらそんなことになりますの? 納得いきませんわ!」
王女・リリアーナが問い詰める。しかしミコトとスラギは。
「知るか」
「あはっ、王女サマも侍女さんも、元気だね~」
平常運転だった。
さっきから思っていたけど胸わしづかまれても微動だにしないあたりこいつらまったく気にしてないな。羞恥心はないのか。というかなんだ、女として考えるべきなのか男として考えるべきなのか、どっちだ。
なんにしろすごくいたたまれないからその話題はやめてほしい騎士団長とイリュートである。
「はい、わかりました。分りませんけど分かりましたから、とりあえず今はそのご質問は後にしていただけませんか、リリアーナさま」
たまらず割って入る騎士団長。やめて。男がいる場所で生々しい女子トークはホントやめて。
そんな必死さにようやく女性陣も正気付いたのか、ばっと自由人から離れてあらぬ方向へと目を逸らす。
するとそれを認めてほっとしたのもつかの間、今度は自由人に動きがあった。
「もういい~? 服がぶかぶかで気持ち悪いから、戻るね~」
笑って言った金髪、こちらは阿呆なことを言いつつまだまだ絶賛混乱中だというのに残酷にもするすると男に戻りやがった。
相対したくない事実が現実として帰ってきた瞬間だった。
そうして再び固まる空気。
「なんで、今まで、黙ってた?」
パクパクと、空気を求める魚のように口を開けては閉めてを繰り返して時からの質問だった。いろんな言葉を、そうそれはもういろんな言葉を飲み込んだ、騎士団長の素朴な疑問である。
果たして答えは。
「あはっ、だって聞かなかったでしょ~」
スラギは楽しそうだった。
そんな恰もこちらが悪いかのように天真爛漫に言われても、予想もしなかった常識を破壊してやまない事実について事前に問い詰めることは不可能である。
殴りたい。
だがしかし。
だがしかし、言ったところで無意味であろうということは既に学習していた四人。
「……そうか」
足を一本ずつ細切れにされていった時のクラーケンと同じ、光を失いすべてをあきらめた瞳で騎士団長は頷いた。
とりあえず、疑問はひとつずつ解消していくべきである。
それが先決であり最善である。
自由人の宇宙を超越した思考回路を矯正することなどとうの昔に諦めきっているのだ。
いや、つい先ほど自由人より先に、常識人の領域に属すはずの女性二人が先陣を切って脱線したけど。
ともかく。
「じゃあ、『両性体』ってのは、なんだ? お前ら二人は女の姿も取れるってことでいいのか?」
まずは理解しやすそうなところから切り込んだ。
すると。
「まあ、その認識で間違ってはいないな。『女の姿を取れる』というよりは、『両方の性を持っている』という方が正しいが」
「『両方の性を持っている』?」
「俺とミコトは男でも女でもあるってこと~。どっちが本物、とかないんだよね~」
訝しげに問い返せば、ニッコリ笑顔で小首を傾げ、スラギが答えた。
「え? でも、いつも男の姿だろう? 今まで見た事なかったしな……」
そして若干の恨みがましさをもってスラギを見る。
まあスラギはどこ吹く風で美女なミコトになついてたけど。
そして容赦ない鉄拳で引きはがされてたけど。
女になってもミコトの躊躇のなさは健在だった。
……しかしあれだ。ミコトが女なせいで今までスルーしてきたスラギの愛情表現が不屈の精神を持ったストーカーにしか見えないどうしよう。
犯罪めいている。
うん、そんなことを思ってスラギへ残念な視線を向けていたからだろうか。
「男の姿の方が、楽だろう」
ミコトの簡潔な回答にすごく納得した。