確かにそこも問題ですが
『俺たちは『先祖返り』の『両性体』だからな』
疑問しかないミコトの言葉だった。しかも不穏な言葉が混じっているではないか。嫌な予感しかしない。
『先祖返り』ってなんだ。
『両性体』ってなんだ。
そしてなにより。
「俺『たち』ってどういうことだ!?」
さらりとぶち込まれた複数形。冷静平然自由人二人。
自由人、二人。
そういう事か? そういう事なのか?
「なんだスラギ、見せていなかったのか?」
「あはっ。だって俺も最近はずっとこの格好だったから~」
悪気など一切なさそうな二人の会話。
ほのぼのである。
二人の間だけだけど。
まあ、つまりだ。つまり、そういう事なんだな?
「……スラギも、女になれると、そういう事でいいんだな……」
精神だけでも違う世界に飛び立てたらどれほどにか楽だろうかという虚ろな瞳で騎士団長は聞いた。
そうして返ってきた答えは。
「そうだよ~」
軽い。
しかもだ。
「見る~?」
そんな簡単に見せれるものなのであろうか、と思う間もなかったしそもそも返事をしていない。
それなのにスラギは言うが早いが。
止める間もなく縮んで次の瞬間そこには金髪緑眼の美女があはっと笑って座っていた。
ガッシャンガッチャンバキッ。
響いたのは、気を利かせた侍女・サロメの淹れた紅茶のカップが次々と割れる音だった。
ちなみに「ガッシャン」が王女、「ガッチャン」がイリュート、「バキッ」が騎士団長である。
しかし紅茶を滴らせるという惨事になりながらも四人が四人硬直してスラギとミコトを見つめていた。
どれだけ凝視しても消え去らない現実という高い壁。
どうしてくれよう、夢の世界に旅立ってもいいだろうか。
くらくらする頭で騎士団長が思ったその時だった。
まさに夢遊するかのように、王女の手がふらっと金と黒、二人に伸びる。
何処に伸びたのかというと、それはそれは、あらぬところに伸びた。
で。
ぐわっし。
王女の右手はミコトの、左手はスラギの。
胸を容赦なくわしづかんだのである。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙、数秒。そして王女はゆら、と離した両手を目の前に翳して瞬きすらせず。
「本物ですわ……」
そんな確かめ方しなくてもいいんじゃないだろうか。
だがしかし王女は己の両手を胸元に抱き込んでうつむいて。
「くっ! わたくしより大きい、ですって……!」
心底悔しそうだった。
そんな怨念のこもる瞳の王女を恐れたか、イリュートが一歩、右足を引いた。
が。
「……本当ですか……?」
幽鬼のような声がイリュートの背後から響いた。思わずイリュートが飛びのくと、そこには能面のような顔をしたサロメが。
で。
ゆらり、ぐわっし。
サロメはよろけるように進み出て、掴んだ。
そして。
「……何てこと……満点ですわ……!」
点数があるとは知らなかった。