その機能は備わっておりません
甚振るの? 甚振ってから生かしたまま食うの?
クラーケンが真正のサドだった件について。
そんな新事実いらない。
いや、それよりも。
「なんでそんなことを知ってるんだ?」
素朴な疑問だった。が。
「昔観察したからな」
だからお前らの濃厚な過去にいったい何があったっていうんだオイ。
観察? 観察したの? 深海の覇者・クラーケンを?
そう言えばスラギも久し振りとか言ってたけど一体どんな状況だったのそれは? というか一応仮にも伝説の存在を何だと思ってるのって突っ込みたかったけどすんでのところで騎士団長は己の言葉を飲み込んだ。
だってそう言えばミコト自身が伝説の体現者でしたねすみません。しかもごくまれに目撃情報が上がるクラーケンよりもそのグレードは上なこの世にたった一人の存在でしたね最近忘れてたけど!
いや、でもミコトが妙にクラーケンに詳しくていらっしゃる理由は判明した。
だからもう良しとしよう。
背景とか経緯とかは丸っと無視して事実だけを受け止めよう。
それが健全な精神の為である。
「そ、そうか……。で、結局その毒はどんな毒だったんだ?」
騎士団長は話題を変えた。
「麻痺毒だな。皮膚からも感染する。……だが、一番有効なのは経口感染だろうな。昔観察した時もそうだったが、クラーケンの毒は攻撃用ではなく甚振る用だからな」
クラーケンが何処までもS!
捕まえて弱らせて口に毒突っ込むの?
そんで麻痺させて遊ぶの?
それは御免蒙りたい!
しかし戦慄している騎士団長たちを置いて話を進める自由人。
「解毒はまあ、さっき調べた様子では一日あればできるだろうが、どこまで麻痺するかは正確にはわからんな」
そして騎士団長を見るミコト。
その視線は何?
飲めって言ってる? 試せって言ってる?
解毒はできるから実験台になれと?
「断固拒否する」
真顔できっぱり言い切った。
すると。
「安心しろ、あんたに飲ませようとは思っていない」
意外にも常識的な答えが返ってきた。
ああ、さすがにその辺には正常な思考が働いていたんだと大いに安堵した騎士団長。
のはずだったんだけどやっぱり自由人に正常を求めるのが大いなる間違いだと知ったのが次の瞬間で。
「俺が飲むから倒れたら支えろと言いたかっただけだ」
待とうか。
騎士団長は驚愕の声を上げて制止しようとした。
しかしその間髪入れない行動がすでに手遅れであったほどにミコトの動きは無駄も躊躇いもなく。
ビーカーに注がれた紫色の毒液はすんなり黒髪の自由人に嚥下されて消えていった。
「本気で飲んだ!?」
がしりと騎士団長はミコトの肩を掴む。後ろでサロメや王女、イリュートも愕然としている空気が伝わってくる。
しかし。
「ふむ」
「平然としている!?」
この期に及んでミコトは冷静だった。
というか麻痺毒じゃないのか。麻痺しないのか。なんでいつも通りなんだ。自由人には毒もきかないのか。
が。
「……ん?」
ミコトが小さく声を上げた次の瞬間。
黒髪の麗人が縮んだ。
「縮んだ!?」
騎士団長は叫んだ。しかし単に小さくなったわけでないことにすぐ気付く。
だって縮んだミコトは美女だった。
美女だった。
「「「「!!!!!????!!!!」」」」
驚愕・硬直・声にならない絶叫。
だがしかしミコトは。
「なるほど」
だから少しは驚け当事者のくせに。