正直者には勝てません
驚愕の新事実。
ミコトは光魔法において治癒という人類が欲する神秘の魔法を使用できたのに使っていなかった。
そのこころは。
「人間は莫迦だからな」
呆けながらも発した質問に対するミコトの答えは端的でした。
さも当然のように種族丸ごとバカにされたんだけどどうすればいいんだろう。
ていうかミコトさんも人間ですよね。人間からいろいろ逸脱しているけど人類ですよね。
顔をひきつらせた騎士団長たちに、しかしミコトは平常運転で。
「分らねえならいい。まあ、治せるものは自然に直した方が体に負荷がかからんというのもあるがな」
言ってさっさと医療具を片付けていた。
説明投げられた!
いや、うん。その後半の理由は納得できなくもないです、はい。それで納得しときます、なんかこれ以上は話してくれなさそうだし。
しかしそこでぴょこんとミコトの後ろからスラギが顔を出して。
「ミコトは治癒魔法だけは、大事な人にしか使わないもんね~。俺とか」
あはっと満面の笑みで言い切った。
自慢か? 自慢なのか? それとも己が人類から逸脱していることを誇示しているのか?
誇るべきかはわからないがスラギが人間であることに疑問を呈したいのはむしろこちらであって、つまりはそんなことは先刻承知であるので改めて言わなくても結構です。
騎士団長たちは冷めた目でスラギを見た。
そしてもちろんミコトも冷めきった瞳で金髪の自由人を睥睨し、「阿呆か」と一刀両断する――――――とおもいきや。
ミコトは周囲の予想を華麗に裏切って。
「そうだな。お前には躊躇わねえよ」
冷めきった瞳で平然と言いました。
瞬間、ぴしり、音がするほどにスラギが固まった。
もちろん騎士団長たちも固まった。
「……えっ」
思わずのような動揺しきった声。スラギお前そんな声出せたのか。騎士団長たちはその意味でも驚愕だ。
しかしただただミコトの視線はまっすぐなままで。
「……なに驚いてんだ。当り前だろう、俺にとって、お前はとても大切な友人だ」
冗談でも何でもない冷静な声と顔だった。
そして次の瞬間である。
「~~~~~~~~~っ!」
沸騰したかのようにスラギが真っ赤になって床にしゃがみ込んだ。
それはもう見事なまでに赤かった。
そして。
「……だから大好きです、ミコトさん……」
真っ赤な顔を両手で隠したまま、消え入りそうな声で言ったスラギだった。
……あ~……えっと。うん。
うん、どうしよう。
動けないんだけど。
ふわふわした花畑が見える二人の世界を前にして取り残された一般人は指一本動かせないんだけどどうすればいいんだろう誰か助けて。
いや分るよ? すごくいい話です、自由人の愛は一方通行ではなくちゃんと届いていた。美しい友情の形である。
スラギの愛は友情と言い切るには重苦しく暑苦しいけれど気にしないことにして。
ミコトにとってスラギは特別。それが証明された。
よかったねスラギ。
でもあれだけ好き好き言ってるくせにいざミコトから好意を示されると弱いんだねスラギ。
初めて金髪の自由人を可愛いと思った瞬間だよ。
感動的だね。
……うん。
でもだ。
ここで繰り広げなくてもいいんじゃないだろうか?
いやミコトに他意はなくて何処までも平常運転の本音であることはわかっているのだけれども。
わかっているのだけれども!
なんだ? ミコトさんのデレ期が来てるのか?
デレの頻度が急上昇している件について。