了解いたしましたので人権を要求いたします
遅くなって申し訳ないです(-_-;)
そんなこんなで、感動しながら諦観するという器用なことをしながらも一行は海へと乗り出した。
そうしてそれは、そんな船旅でふいに起ったことだった。
国が手配した船、それはさすがに大きく馬も運べるほどで、いかに魔王が『ヤダうざい』と言おうとも大目に見てほしい船旅、となるはずだったのであるが。
まさかの障害がここで起こった。
船が走り始めて三日目の事である。
「とろい」
たいへん唐突に、何の脈絡もなくミコトがそう口走ったのである。
……いや。
いやいや。
これが王国が用意できる、っていうかこの世界でも最速の船ですけど? 至れり尽くせりの最大限の気を使った船なんですけど?
だがしかし自由人たちはやはり思考が宇宙めいていた。
「だよねえ、おそーい」
スラギまであはっと笑って同じことを言い出した。近くで聞いていた乗組員の額に青筋が走っているけど気にも留めない図太さである。
「……いや、お前らだって旅してたっていうし、船に乗ったことぐらいあるだろ? それがどんな船だったにしろ、それと今回の速さとはさほど変わらねえと思うんだが?」
間を取り持つように言った騎士団長。
が。
「船なんぞ乗ったことはない」
「俺もないねえ」
あっけらかんと返ってきた答えはまさかのノーだった。
なんでやねん。
じゃあ何か、乗ったこともないのに文句言ってるのかこいつらは。
ていうか噓だろ? 特にスラギ。だって城に居た五年間、こいつが気まぐれに持ってくる土産めいたものって明らかに海の向こうの国の名産品だってあったんだけど?
だがしかし。
「「だって俺たち飛べるし」」
嘘じゃなかった。
騎士団長たちは叫んだ。
「「「「そっちか!」」」」
そうだった。こいつら理不尽な規格外能力者だった。
飛ぶのね? 海を越えても余裕の魔力量なのね? ていうかスラギにとどまらずミコトまでも飛ぶのか。ふわふわ行くのか。
あれか? 重力魔法か? 熊をスパッといったあれか? そうだな包丁が浮くなら人間も浮くよな。
そんでもってその速度は船より速いと? びゅんびゅんいくと?
このチートが!
騎士団長は内心青筋を立てた。が、表面上はたいへん冷静に。
「そうか。……で?」
この船では遅いのね? だからどうにかしたいのね? どうしたいのかな?
そんな意味を込めて聞いてみた。
すると。
「んー、全員飛ばすのも出来るけど~」
「やめて」
間髪入れずに返した騎士団長に周囲は激しく頷いた。
ホントやめて。何てこと言い出すのこの自由人。飛ばす? 飛ぶの? 飛んじゃうの?
落ちたらどうしてくれるのこいつ。そして落としても笑顔で「あはっ、ごめんね~」とか言いながら放置していく未来図が見える。
そんな全力の拒否に今度はミコトが一つうなずいた。
「そう言えば、小さめの船が内蔵されていたな」
言われて騎士団長は反射的にうなずく。確かに、緊急の場合などのために少々小さめ、とはいっても王国所有なのだからそれなりに設備は整った船が、あるにはある。
で。
そこからは早かった。
何にも云わずにミコトが船底に行ったかと思えば亜空間から何か薬品の入った注射器を取り出してそこにいた馬にぶすっと投与。こと切れたかのように倒れた馬。
何すんのこの人、という視線をものともしないで、ミコト曰くどうやら眠ったらしい馬と馬車を何でもないかのように亜空間に収納。
できんの? そんなのも入るの? というか生きてるもの入れて良いの?
聞いてみた。
「できないことを俺はやらない」
そうですね!
でだ。
次はばっしゃんと小型船を海に落として一言。
「乗れ」
あ、拒否権は存在しませんかそうですか。