呼んでないから寄ってこないでいただきたい
所は変わって場所は海だった。
海だった。
――出発から早一か月半、やっとここまでやってきた一行である。
なぜ海か?
もちろん魔王が居住するのは海の向こうの魔大陸に他ならないからである。
大変だった。この一か月半、本当に大変だった。
騎士団長をはじめとした四人は遠い眼で潮風に吹かれ、青い大海原にうっすら涙をにじませる。
いやまだ当然のように旅は続きますけど?
むしろ半分以上残っているこれからが本番ですけど?
でもなんていうかあれだ。
ここまで六人そろっていることが感慨深い。
だって自由人どもがひどかった。ホント酷かった。行方くらますわ行方くらますわ行方くらますわ。
主にスラギだけど。
これに関してはミコトさんほんとにありがとう。
スラギホイホイのあなたがいなかったらどんなことになっていたか恐ろしすぎて考えたくもない。
まあミコトさんもミコトさんで自由さが大概だったけど!
いろいろ。いろいろ!
王女が倒れて回復した後の話。
いやあの薬は本当にすごかった。ホントに次の日の朝には王女は全快していて元気に寝起きで絶叫だった。
うん、薬に関しては旅程に支障も出なくて本当に感謝なんだけど。
でもね、そのあとの数週間はなんでこうなったといいすぎて騎士団長は喉が枯れた。一回りくらいやせた気がする。
何この強制ダイエットイベント!
……うん、詳しく語る気力はないのだけれどもまあ、いくつか例を挙げよう。
たとえばある一日では、スラギが丁度開催されていた武闘大会に嬉々として殴り込みに行って華麗に優勝をさらって帰って来た。
もちろんその際に「ミコト応援してね、頑張るから~」とほざいたスラギ、しかしミコトはため息ひとつで「ほおっておけ」でホントに先に進んでいったから四人は慌てて追いかけた。
あまりの躊躇のなさに拍手した。
そんでもってスラギは「あはっ、相変わらずだね~。そういうところも大好きだよ~」って言いながらその日の夜には戦利品片手に追い付いてきた。
その鋼鉄の愛に戦慄が走った。
また、例えばある日は盗賊に囲まれた。なんでってスラギが毎晩恒例一網打尽狩りイベントにて「間違えちゃった~」とか言いながら盗賊の隠れ家吹き飛ばしたから。
ちょうどその時絶賛追いはぎ中であった盗賊一味、スラギの可愛らしい物言いからはかけ離れた理不尽な一撃を免れた。しかし仕事から戻ってがれきを発見、唖然としたあげくちらっと見えた金髪パーマをさがしていたとか。
何てことしてくれるのこの自由人。
騎士団長はため息をつきたかった。
まあ騎士団長とイリュートが剣も抜かないうちにスラギがクシャっとしてポイっと棄てて何事もなかったかのように進んだんだけど。
ていうかスラギがそれをする一瞬前、「こいつら邪魔だな、消すか」って黒髪の麗人から聞こえた気がする怖い。
何する気だったの? 何をやらかすつもりだったの? 消える? 消えちゃう?
怖くて聞けなかった。
そしてまたある日にはそれなりに大きな町で、美人な求婚者にまとわりつかれるという珍事件もあった。
ちなみに求婚されたのはミコトである。
色っぽい大人のお姉さんで相当自分に自信がある御様子の、ミコトに一目ぼれしたかわいそうな人だった。
何が可哀想って完膚なきまでにミコトに無視された挙句微笑む金髪の悪魔に存在抹消されかけたからね?
その時のスラギは超怖かった。
超怖かった!
「お姉さんごめんね? その人は俺の大事な人なんだ~」とか言いながらにこにこ笑って特大の火球を構える金髪美形。
容赦がない!
まあ「暑苦しい」ってミコトに足蹴にされて放たれることはなかったけど。
火球が暑苦しかったの? それとも鈍重な愛が暑苦しかったの?
どっちも? ですよね。
勿論お姉さんは失神してフェードアウトなさいました。
……そんな、道のりである。
そんな、道のりだったのである。そしてこれは一部。氷山の一角。
なんなのトラブルホイホイなの? 引き寄せてるの? 吸引してるの?
出来ればこの先は大人しくしていただきたいけど無理だろうなと思う四人だった。