表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
ユースウェル王国内編
39/254

若かったんです

 大丈夫、そう笑ってくれた幼い少年。

 なんと大人の対応だろうか、天使である。


 そしてそんなイリュートに幼いリリアーナは瞬きをして、きょとりと少年を見返した。そうすれば自然と涙は止まっている。

 するとイリュートはモミジのような可愛い手をリリアーナに伸ばし、


『……リリアーナさま、いいこ、いいこ』


 なでた。

 あまりのかわいらしさに周りの侍女は悶絶ものである。

 おそらく彼の母や兄弟が、よくこのようなしぐさをしているのだろう。慣れないながらも一生懸命なでているその様子。天使である。


(そうですわ、このころはこんなにイリュートが近くて……名前も呼ばれて……)


 ちょっとだけ、拗ねるような気持で幼い二人を見ていた現在時点・リリアーナ。

 夢の中、幼いリリアーナもそんなイリュートの仕草が恥ずかしくも嬉しかったのだろう、ぷくぷくほっぺを真っ赤に染めてもじもじとしている。


 が。


 誰もが予想外だったのは次の瞬間である。



 ぱっちーん。



 思いのほかに響いたそれは子供・リリアーナが子供・イリュートの手をはじいた音。

 で。


『ぶ、ぶれいもにょ! じゅ、じゅがたかいでしゅわ!』


 噛んだ。


 しかも多分この時リリアーナの中でうれしい<恥ずかしいであったのだろう、真っ赤な顔で視線は遥にあらぬ方向、指はぴしりとイリュートをさしているけど指された少年は周囲の大人と一緒にぽかん。

 もちろんそんなの綺麗に忘却していた現在時点リリアーナもぽかん。


『いいいいいりゅーとなんかが、わたくちになにをきやすくさわってましゅの!? わたくちが『いいこ』なんてあたりまえよ!』


 噛み噛み幼少リリアーナ。

 瞬き幼少イリュート少年。

 止めるに止めれぬ大人の集団。

 そして頭を抱えた現在時点リリアーナ。


 で。


『えと、えと、ごめんね、リリアーナさま、あの、』


 欠片も悪くないのに謝ったイリュート少年は天使だった。侍女と騎士は感涙した。

 が。

 それでも幼女は止まらない。


『だれがなまえをよんでいいといったのです! 『ひめさま』とおよび!』


 庭園に幼女の声が響いた。

 そして。


『う、あ、りり、……ひめ、さま』


 おずおずと言い直した少年イリュート、満足げに腕を組んで鼻息荒い幼女リリアーナ、呆然と立ち尽くす侍女と騎士。


 そして顔面蒼白は現在時点リリアーナ。


 まさかの。

 まさかの!


 名前を呼ばれなくなって寂しいとか言ったの何処の誰。

 黒歴史である。この日あの場にいた侍女と騎士の記憶を抹消したい。


 そしてなんてこと。芋づる式に思い出した。思い出した! この一件からホントにイリュートはリリアーナのことを『姫様』としか呼ばなくなって、少しずつ距離が置かれるようになったんだった!


 自業自得!


(……や、)


 リリアーナは震える声で。



「やり直しを要求しますわ―――――!」



 現実に叫んで飛び起きた。

 朝だった。

 そして集まる視線が五つ。


「姫、様?」

「リリアーナさま? ど、どうなされたのです?」

「何かあったんですか?」

「何言ってんだアンタ」

「あはっ、お姫サマすっかり元気だね~」


 かかった声も五つ。

 ……硬直、赤面。


 黒歴史が増えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ