世界の為です
……いや、いい。
いや、此処はもうスラギの鬼畜は置いておこう。その光景すごく想像できるし。死にかけてる人間に笑顔で追い打ちかけるのがこの自由人ですよね知ってた。
いまは金より黒の自由人の話である。
「……つまり?」
聞く。
――空気が変わった。
そしてスラギは甘く甘くとろけたような笑顔をこぼして。
「その人が生きても死んでもミコトはどうだっていいけど、手を伸ばすのがあいつの『当り前』」
だからね、と。
「ミコトは『受け入れてくれる人』なんだよね」
スラギは笑う。
「俺みたいなのでもね~。去る者追わずだけど、どんなことも嫌な顔したって、結局抱えてくれるんだよ」
それが、たとえ最も親しいものの死であったとしても、受け入れるほどに深く強い人。
「優しいでしょ?」
そうして、自慢するように、緑の瞳で見上げてきた。
だからミコトは壊さない、と。
その彼の言葉が真実かは、騎士団長は知らない。確かめられるほどに彼らを知らない。
でも、スラギが本気かどうかくらいはわかる程度に長く振り回されてきた。
だから、これはスラギの知り得る『本当』なのだろう。
思い、騎士団長も笑った。
「そ、」
が。
「まあ、俺はミコトがいない世界なんていらないから壊しちゃうんだけどね~」
『そうだな』と言おうとした騎士団長をぶった切り、あはっといつものようにスラギが笑った。
待って壊れた。
さっきまで一瞬作られかけてた『いい話』の空気が木端になった。
何この自由人、やっぱり己は破壊魔であると公言したいの? 実は世界滅亡願望があるの? ミコトが抑制剤なの?
その笑顔はいったい騎士団長にどんなリアクションを求めてるの?
……いや、とりあえず整理しよう。
ミコトは優しい。懐が深い。了解した。それに抱えられてスラギはわんこになった。愛が鈍重な魔犬だけどわんこはわんこだ。理解した。
まあミコトさんのデレは破壊力が凶悪だし、なんだかんだよく考えると騎士団長も助けられている面もあるから否定しない。
振り回されている面が巨大すぎるので自由人のレッテルははがれないけど。
ともかく。
そんなミコトの中でも、スラギは『同類枠』で特別だから、失くしたら悲しむ。……けど、やっぱりミコトさんは優しいから破壊衝動には走らない、と。
なるほど。
整理完了、騎士団長の中で自由人の情報がまた一つ補完された。
騎士団長は一つうなずく。
そこへ。
「お前ら、さっきから何やってるんだ。俺たちも夕飯食うぞ」
黒髪を揺らす麗人の声がさらりとかかった。
騎士団長が金色の自由人に不可解な世界へと誘われている間に、神の手は今宵も美味なる夕餉を作り上げていたらしい。
「わ~い。ご飯~」
それにスラギはあっさりミコトの方へと歩み寄る。もちろん騎士団長も歩き出す。
が。
「……ミコトさん」
ただ歩み寄っただけではない。カツカツと詰め寄るが早いが、がしりとミコトの手を取った。
で。
「長生きしてください」
告げたのは切実な願いだった。
次の瞬間無言で足蹴にされたけど。
ここまでで黒金自由人の掘り下げは一応終了です。