幻聴が聞こえます
※シリアス注意!
の、はずがやっぱり崩壊しました。
この世は何処までもままならない。そんなこと知りたくなかったけれども痛感している今日この頃な騎士団長である。
もういい。諦めた。自由人を御せるのは自由人だけなのだ。
騎士団長が言うと「ヤダ」って笑うくせにミコトが言うと「は~い」っていいお返事するスラギを見ると殺意が留まるところを知らないけど。
ともかく。
隣でニコニコ笑っている金色の自由人に、なんでさっきは、今更『怖い』なんて思ったのだろう気のせいだったかなとかいう疑問を持ちながら、今はそれより先に確かめたいような確かめたくないようなことができてしまったので。
「なあ、スラギ?」
「ん? 何~、団長」
迷ったあげく、騎士団長は。
「思ったんだけどな、お前、俺の名前……覚えてるか?」
聞いてみた。すると。
「……」
沈黙。見つめ合い。
で。
「……あはっ」
笑ってごまかされた。
「忘れちゃった~」
違った正直だった!
わかってたけど! わかってたんだけど! 泣いていい? ねえ泣いていい?
「『ジーノ』な? 『ジーノ・アレドア』。いい加減覚えてくれないか?」
涙目で騎士団長は己の名を告げた。
が。
「……あはっ、団長は団長でしょ~」
本人に覚える気がかけらもなかった。何この子いっそ清々しい。
「……」
騎士団長は胡乱な目で金を纏った一応部下をねめつける。そしておもむろに、部屋の中の人物を指差して。
「……じゃあ、あいつは?」
聞いてみた。そうすれば。
「侍女さんだね~」
「あいつは?」
「騎士くんだね~」
「……あの方は?」
「王女サマ~」
お見事である。そして最後に騎士団長は『彼』をさし。
「……あの人は?」
すると。
「……ミコト」
とても柔らかく、彼は名前を呼びました。
砂を吐いてもいいだろうか。
いやうすうす気づいてたけどね? わかってたけどね?
スラギっていうかぶっちゃけミコトもなんだけど、彼らが名前で呼ぶのは、
『ミコト』
『スラギ』
お互いだけだという。
友人であるという黄龍も、その名は出てこなかった徹底ぶり。
なんなの、ラブラブなの? そこに割って入る余地はないの?
いや、まあもしかしたら今は亡き、自由人たる彼らの師だったという、『グレン翁』。
今のところ彼に関しては「変人だった」という情報しか公開されていないのだけれどもそれはそれとして、彼の人だけは弟子の心の内側に、かつてはいたのかもしれないとは思う。だってミコトがその名を呼んでいたので。
決め手は付き合いの長さですか。それとも同類ゆえですか。
……同類ゆえなんだろうなと騎士団長は遠い眼で思った。
「……ホント、お前ミコトさん大好きだよな……」
引き攣る声で騎士団長はつぶやいた。すると。
「うん。大好き」
ああそこ認めちゃうんだ。
うんもういいけど。諦めてるけど。あれですね、この話題をスラギに振った騎士団長が悪かったんですねごめんなさい。
騎士団長は虚ろな瞳で乾いた笑いを漏らした。
しかし、そんな騎士団長を見てふふっとスラギは笑う。
死んだ目をした上司の何が面白かったの? 鬼畜なの?
が。
「俺はミコトが、ホントに大好きだよ? もしミコトがいなくなっちゃったら、ぜーんぶ壊しちゃうくらい」
どうしよう怖いこと言い出したんだけど。